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2011年 03月 22日
(twitter更新日2011.3.23の再掲)
多くのご質問をいただいている、放射線の「妊婦・胎児への影響」について、お話しします。 妊娠中、「器官形成期」と呼ばれる妊娠初期の2か月間がとくに放射線の影響を受けやすいのです。また、妊娠2か月以降の「胎児期初期」も比較的影響を受けやすいとされています。 放射線が胎児に及ぼす影響には、奇形、胎児の致死、成長の遅延などがあります。ただし、少なくとも10~20万マイクロシーベルト(累積)以上の放射線被ばくがないと、これらの影響は生じないことが知られています。 また、受胎(妊娠)前に被ばくしても、それが原因となって、胎児・子供に影響が出た、ということは報告されていません。 このことは、国際放射線防護委員会の勧告「妊娠と医療放射線」に示されています。http://bit.ly/hC5pC6 要旨には「胎児が浴びた放射線の総量が100ミリグレイ(=10万マイクロシーベルト)以下では、放射線リスクから判断して妊娠中絶は正当化されない」と書かれています。 国際放射線防護委員会の勧告は、CTなど医療で使用する放射線による、短時間での被ばくを想定したものものです。原発から放出される放射線のように、長時間かけてゆっくり被ばくした場合には、被ばく中にDNAの回復が起きるため、短時間での被ばくよりもはるかに影響が出にくいことも知られています。 したがって、現状では、少なくとも避難地域や屋内退避地域以外であれば、胎児への影響はまず心配しなくてよいでしょう。ただし、みなさんご存知のように、自然被ばく(原発事故がなくても、私たちが宇宙や大地や食料から受けている放射線)のレベルでも、奇形や小児発がんは、皆無ではありません。 #
by teamnakagawa
| 2011-03-22 15:19
| 被ばくとは
2011年 03月 20日
(twitter更新日2011.3.21の再掲)
放射性ヨウ素(I)やセシウム(Cs)による内部被ばくによって、具体的にどの程度の健康被害が起きるのでしょうか。内部被ばくについて考える前に、「放射能(Bq:ベクレル)」と「被ばく量(Sv:シーベルト)」の違いについて見てみましょう。 Bq(ベクレル)というのは、一秒間あたりの放射性物質の崩壊数を表します。いわば「放射能」のことです。「崩壊」を理解するには、Cs-137を例に、東京大学の早野龍五先生が作成くださった図を参照ください(図1)。 ![]() 例えば、放射線物質であるCs-137(セシウム137)は、安定なCs-133に比べて中性子の数が多過ぎ、一個の中性子が陽子に変わります。これをベータ崩壊と言います(図1参照)。 Cs-134(セシウム134)も同様です。 一方、崩壊した時に出てくるベータ線やガンマ線(放射線)が、人体に与えるダメージを「被ばく量(Sv:シーベルト)」で表しています。 「放射能(Bq:ベクレル)」と「被ばく量(Sv:シーベルト)」は密接な関係にあります。放射能が増えると被ばく量も当然増えます。 食物に含まれる「放射能(Bq:ベクレル)」が、それを摂取する私たちにどれだけ「被ばく量(Sv:シーベルト)」を与えるかは、放射性物質の種類、取り込み方(吸引か経口か)、私たちの年齢などによって変わります。(表1参照) ![]() p.36 別表4:実効線量及び甲状腺等価線量への換算係数表(mSv/Bq) (但し、Cs-137において、1.3×10-4 → 1.3×10-5に訂正) これらを考慮すれば「放射能(Bq)」から「被ばく量(Sv)」に変換できます。 では、まずCs(セシウム)による被ばく量(Sv)を見積もってみましょう。 Cs-134(セシウム134)は、3月16日8時に福島市で水道水中に1kgあたり25Bq(ベクレル)観測されました。それ以降は観測されていません。被ばく量に変換するためのCs-134(セシウム134)の「変換係数」は、大人で0.019μSv/Bqです。つまり、1Bq(ベクレル)で、0.019μSv(マイクロシーベルト)の被ばく量であると計算できます。 この「変換係数」は、私たちの年齢などによって変わります。では、3月16日8時に福島市での水道水を2リットル飲んだとしましょう。体内には50BqのCs-134が取り込まれます。「変換係数」を使うと0.95μSv(マイクロシーベルト)の被ばくです。同様にCs-137では、0.86μSvの被ばくです。両方足し合わせると、1.81μSvです。 3月19日、ホウレンソウに1kgあたり524Bq(ベクレル)のCs(セシウム)が観測されました。Cs-134かCs-137か内訳はわかっていませんので半分ずつだと仮定します。このホウレンソウを100g食べたとすると、トータルで0.84μSv(マイクロシーベルト)の被ばくとなります。 [ちなみに私たちは日頃から食物に含まれる放射性K(カリウム)による被ばくを受けています。それは1年で100~200μSv(マイクロシーベルト)と推定されています。] 今推定したCs(セシウム)の被ばく量は、放射性物質を一度摂取したことによって70歳になるまでに蓄積されるであろう被ばく量を表します。もちろん年齢による代謝や食生活の違いによって個人差も生じると考えられます。 ここで推定されたCs(セシウム)の被ばく量は少ないように見えますが、食品衛生法上の暫定(ざんてい)規制値を越えているのも事実です。規制値を越えた食物の流通を管理することで、国民の安全が確保されると考えています。 では、次にヨウ素I-131の被ばく量も見積もってみましょう。 放射性物質であるヨウ素I-131の「変換係数(μSv/Bq)」は、0歳で0.140、1~6歳で0.075、7~14歳で0.038、15~19歳で0.025、大人で0.016です。(乳児はお母さんの母乳から摂取するとします。) ホウレンソウ中に観測されたヨウ素-131の最大値として、1kgあたり15,020Bq(ベクレル)を用います。そのうち100gを摂取したとします。 1~6歳 :15,020×0.1×0.075 = 112.65 7~14歳 :15,020×0.1×0.038 = 57.08 15~19歳 :15,020×0.1×0.025 = 37.55 大人 :15,020×0.1×0.016 = 24.03 単位は(マイクロシーベルト)です。乳児の場合は、I-131を摂取した母親の授乳により乳児が受ける線量は母親の摂取量あたり0.054 μSv/Bq (参照:ICRPPub.94 Table 13.1) として、15,020×0.1×0.054 = 81.11μSv(マイクロシーベルト)が被ばく量となります。 乳児の方がお母さんよりも被ばくが多くなります。これは、ヨウ素が母乳で濃縮されることが理由ではありません。乳児に影響を与えるのは、摂取した母乳中のヨウ素の濃さではなく蓄積量ですから、乳児がヨウ素をお母さん以上に摂取することはあり得ません。乳児の方がお母さんよりも被ばくが多くなるのは、乳児は大人よりも臓器が小さく、また放射線に対しての感受性が高い等の理由が考えられます。お母さんが摂取を抑えることで、乳児への影響も十分小さくできると考えられます。 以上より、人体に影響の出てくると言われている被ばく量100ミリシーベルト=10万マイクロシーベルト(累積)に比べると、ホウレンソウ100gを一日食べたことによる、放射性ヨウ素、放射性セシウムからの被ばく量は、乳児、成人共に健康に影響を与えるレベルではないことをご理解頂けると思います。 今は、水道水とホウレンソウからの被ばくだけを見積もりましたが、他の食物や自然界からの放射線をすべて考慮して、被ばく量を考慮すべきということも頭に入れておく必要があります。 #
by teamnakagawa
| 2011-03-20 17:44
| 被ばくとは
2011年 03月 20日
(twitter更新日2011.3.21の再掲)
福島第一原発の冷却システムの復旧が視野に入ってきました。(3 月21 日当時) いまだ、予断を許しませんが、仮にこのまま、新たな放射性物質の放出が減っていくとすると、これまでに飛散した放射性物質のなかで、“セシウム(Cs)”が問題となるはずです。 飛散した放射性物質のうち、最も多いのが、放射性ヨウ素(I-131)で、次が、放射性セシウムです。ただ、I-131(ヨウ素131)は8 日毎に半分になっていきますから、3 ヶ月もすれば、ほぼゼロレベルになりますが、放射性セシウムの半減期はもっと長いので問題になります。(理由は後述) 3月21日以降、かなり微量(基準値の1%程度)ですが、東京都の水道水中に、2 種類の放射性セシウム、Cs-134、Cs-137 が検出されています(健康安全研究センター@新宿区による測定)。Cs-134 の半減期は約2 年、Cs-137 では約30年です。特に、Cs-137 は土の中などに長い間存在して、放射線を出し続けます。 ただし、その量は極めて微量です。ちなみに、放射性セシウムの半減期が30 年といっても、排尿や代謝によって体外に放出されます。その結果、内部被ばくによって人体に影響を及ぼす、実効的な半減期は100 日程度といっていいのです。 放射性物質の放射能を警戒するには、その〈量=測定値〉と〈時間=半減期〉の関係を正しく理解することが重要です。3 月21 日時点での福島第一原発敷地内での放射能は、I-131(ヨウ素131)で1リットルあたり5.94(Bq:ベクレル)となっており、Cs-137(セシウム137)1リットルあたり0.022Bq よりも大きいですね。現時点ではI-131 のほうが「放射能」は強い、と言えます。 この値から、I-131(ヨウ素131)とCs-137(セシウム137)それぞれ1リットルあたりの個数を出してみましょう。答えはI-131 が600万個、Cs-137 が3300万個となります。なんと、Cs-137(セシウム137)のほうが多いのです。 I-131(ヨウ素131)は8日で半分になります。現時点での放射能は大きいけれど、3ヶ月もあればほぼなくなります。一方、Cs-137(セシウム137)が半分になるには30 年必要です。その数もI-131(ヨウ素131)に比べて初めから5倍以上多いのです。 長期的に見れば放射能もCs-137(セシウム137)のほうが多くなります。Cs-137(セシウム137)が拡散すれば持続的な被ばくにつながることが理解できると思います。 もちろん、これはあくまで原発事故が収束することを念頭に置いてのお話です。それを前提にすればヨウ素131 の影響は「期間限定」。「今」を注意することで被害を最小限にできます。問題はセシウム137です。土壌汚染や食物などによる内部被ばくをずっと意識しなければなりません。 #
by teamnakagawa
| 2011-03-20 14:34
| 被ばくとは
2011年 03月 15日
(twitter更新日2011.3.15~20の再掲)
東京大学医学部附属病院放射線科の中川恵一です。 東北関東大震災の被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。 現在、東大病院で放射線治療を担当するチームの責任者をしており、医師の他、原子力工学、理論物理、医学物理の専門家がスクラムを組んで、今回の福島第一原発事故に関して正しい医学的知識を提供していきます。 2011年3月15-19日現在の状況を踏まえた事故に関するコメントを若干整理してまとめました。ご参照ください。 【放射線と被ばく】 放射線とは電離を与える光や粒子のことです。 多くの放射線は、ものを通り抜ける能力を持ちます。そしてこれをあびる量が多くなると、遺伝子にダメージを与え人体に影響を及ぼすことがあります。 放射線を出す能力を放射能、それを持つ物質を放射性物質と呼んでいます。 今回の原発事故では原発から放射性物質が飛散しています。これは大きな杉の木から花粉が飛散している状態と似ています。ただし、放射性物質は目に見えません。 花粉を避けるには窓を閉めて花粉を部屋に入れないことです。 しかし、この放射性物質からの放射線は窓や壁を突き抜けるため、花粉から出る放射線を避けることは、原理的にはできません。 また、体の中に取り込む可能性もあります。体内から被ばくする事を内部被ばくと言います。体の外からあびる外部被ばくより深刻です。 花粉と同じように放射性物質を体にたくさんついた状態で帰宅されたら、服を脱ぐ事、体を洗う事が重要です。また、外出する時は、ぬれたタオルなどで口や鼻をふさぐと安心です。 テーブルの上に置く果物などには、ラップをかけ、食べる前に洗うとよいでしょう。窓を閉めても意味がないというのは勘違いです。窓を閉めることは大きな意味があります。さえぎる物があると放射性物質の侵入を防げます。外からの放射線の影響も弱まります。 そもそも、放射線の被ばくがある、ない、という議論は無意味です。なぜなら、ふつうに生きているだけで、私たちはみんな“被ばくしている”からです。 世界平均で1年間に2.4mSv「ミリシーベルト」という量の放射線をあびます(大気、大地、宇宙、食料等から発せられる放射線から受ける被ばくを自然被ばくと言います)。mSvは「ミリシーベルト」と呼びます。ミリシーベルトは、放射線が人体に与える影響の単位です。ミリ(m)はマイクロ(μ)の千倍です。1 mSv = 1000 μSvです。 自然被ばくは国や地方によって違い、イランのラムサール地方は10.2 mSvの放射線を一年間であびています。つまり年間10200μSvの被ばくがあります。逆に少ない所もあります。 2011年3月15日、東京周辺では、1時間当たり1μSv程度の放射線が観測されています。これは、大気、食料などから普段あびている自然被ばくと比べるとどの程度のものになるでしょう? 現在の東京に100日いると、2.4 mSv = 2400μSvあびることになります。つまり、昨日の状況が続くと、普通は1年であびる放射線量を100日であびることになります。通常の3倍程度の放射線をあびることになるということです。 まず、この放射線量が医学的にどの程度の影響を持つ量なのかを考えたいと思います。 200mSv (ミリシーベルト) つまり200,000 μSv (20万マイクロシーベルト) が医学の検査でわかる最も少ない放射線の量と言われています。症状が出るのは、1,000 mSvすなわち1,000,000μSv (百万マイクロシーベルト) からです。極端な例ですが、全身に4,000,000μSv (4百万マイクロシーベルト) あびると、60日後に50%の確率で亡くなります。 もっと低い放射線量では、症状もなく、検査でも分かりませんが、発がんのリスクは若干上がるだろうと想定して、その管理を行なうべきだとされています。ただし、およそ100mSv(ミリシーベルト)の蓄積以上でなければ発がんのリスクも上がりません。危険が高まったとしても、100mSvの蓄積では極めて僅かな増加と考えられます。(0.5%程度の増加を想定して管理) そもそも、日本は世界一のがん大国で、2人に1人が、がんになります。つまり、50%の危険が、100mSvあびてもほとんどそのがんになる危険性は変わりません。タバコを吸う方がよほど危険です。現在の1時間当たり1μSvの被ばくが続くと、11.4年で100mSvに到達しますが、いかに危険が少ないか分かると思います。 【線量と線量率の違い】 さて、放射線の量をお風呂のお湯に例えてみます。 「1時間当たり何ミリシーベルト」といったり「1年当たり何ミリシーベルト」といったりする場合、その量は「蛇口から流れ出るお湯の出方」を意味します。値が大きければ、激しく流れ出ていることになります。 そして、たまったお湯の量が、ただの「何ミリシーベルト」という値です。上の例では、11.4年かけてぽたぽたと100mSvのお湯がたまったことになります。 でも、ここで注意が必要です。数分で、一気にためたお湯と、11年かけてためたお湯では、量は同じでも、放射線の場合には、人体に与える影響は、全く違うのです。生物のDNAは、放射線で一時的に壊されても、すぐに「回復」が起こるのです。1 μSv/h(マイクロシーベルト/時間)という「線量率」では、傷つけられたDNAは、ほとんど回復するため、医学的にほぼ影響がありません。もちろん、今後も影響が全くないとは言えません。 【放射性ヨードについて】 今回の原発事故により福島県内などで放射性ヨード、セシウムが微量ながら検出されております。これはウランの核分裂により作られたもので、風や雨により到達したものと思います。ただし、非常に微量なため、現時点では健康被害は全くありません。 甲状腺とはヨードを取り込み、それを材料にして甲状腺ホルモン(体のアクセルとなるホルモン)を作る臓器です。 放射性ヨードは、甲状腺がんや甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の治療に使われます。ただし、これら医療用に使われる放射性ヨードの量は現在、各地で空気や飲料水1リットルから1時間に検出されている量と比べて桁違いに高い(1000億~10兆倍程度)量です。 バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に産生される病気で、内科的治療でコントロールできない場合、正常の甲状腺細胞に放射線ヨードを取り込ませることで甲状腺細胞にダメージを与え、過剰になった甲状腺機能を抑えます。放射性ヨードは、「クスリ」にもなると言うことです。 また、多くの甲状腺がんにも、甲状腺細胞ほどではありませんが、ヨードを取り込む性質が残されており、バセドウ病と同様に、放射線ヨードを口から飲むことで、がんの治療が行われます。この場合、正常の甲状腺が残っていると、放射性ヨードが、正常の甲状腺細胞にばかり集まってしまいますので、甲状腺を全部摘出することが必要です。 現時点での原発事故による放射性ヨードの心配をする必要はありません。医薬品であるヨウ化カリウム製剤も、現時点では服用する必要はありません。ましてや、消毒薬のイソジン(ヨードを含む)を飲むなど、絶対にやめて下さい。それに伴うアレルギー、甲状腺機能異常などの副作用の方がずっと心配です。 *首都圏の環境放射線が、一時、毎時1マイクロシーベルトにまで上昇し、今後どんどん値が上昇して行くのではないかと心配された方もおられたかもしれません。しかし、3/16 以降は、たとえば、東京で、毎時0.052-0.053 マイクロシーベルトと平常時に戻っています。 神奈川、千葉、埼玉なども同様です。 【内部被ばくの見積もり(I-131 の場合)】 内部被ばくが実際にどの程度の影響があるのか、という質問が多いので、それについてご説明します。 私たちは、大気、大地、宇宙、食料等からも日常的に放射線を浴びています。これを「自然被ばく」といいます。放射性物質を含む水や食物を体内に取り込むと、体内の放射性物質が、体内から、放射線を発します。この日常的な水や食物からの内部被ばくは、主にカリウムによるものです。 カリウムは、水や食物などを通して、私たちの体の中に取り込まれ、常に約200g 存在します。その内の0.012%が放射能を持っています。すなわち日常的に360,000,000,000,000,000,000 個の“放射性”カリウムが、体内に存在しています。 “放射性”カリウムは、体内で1 秒間当たり6,000 個だけ、別の物質(カルシウムまたはアルゴン)に変わります。これを「崩壊」と呼んでいます。そして、崩壊と同時にそれぞれの“放射性”カリウムが放射線を放出します。これが内部被ばくの正体です。1 秒間あたり6,000 個の崩壊が起こることを、6,000Bq(ベクレル)と言います。 例えば今、“放射性”ヨウ素が、観測によって各地で検出されています。その“放射性”ヨウ素が含まれた水を飲むと、内部被ばくが起こります。この影響はいったいどれくらいでしょうか? 福島原発から約60km離れた福島市の18 日の飲料水に含まれていたヨウ素の崩壊量は、最大で1kg あたり180Bq(ベクレル)でした。1 秒間に180 個の崩壊が起こっているということです。ヨウ素が甲状腺に取り込まれる割合を20%とし、その放射能が半分になる日数を6 日と仮定できます。現在の福島市の水を毎日2 リットル飲み続けると、約720Bq(ベクレル)の内部被ばくを受けることになります。 ![]() 現在の福島市の水を毎日2 リットル飲み続けると、720Bq(ベクレル)の内部被ばくを受けることになります。これは、先ほどのカリウムによる日常的な内部被ばく(6,000Bq[ベクレル])の8 分の1 以下です。もちろん、取り込まれ方や崩壊の仕方はカリウムとヨウ素で異なるので、正確な比較ではありませんが、今観測されている放射性物質の影響をこのように見積もることができます。 【「牛乳問題」も“期間限定”】 2011 年3 月19 日現在、食品についての放射能の測定が始まっており、牛乳などから、わずかな放射能が検出されたと報じられています。しかし、「牛乳問題」は“期間限定”です。そもそも、なぜ、牛乳が問題になるか、順に解説していきます。 史上最大の放射事故であるチェルノブイの原発事故では、白血病など、多くのがんが増えるのではないかと危惧されましたが、実際に増加が報告されたのは、小児の甲状腺がんだけでした。なお、米国のスリーマイル島の事故では、がんの増加は報告されていません。 放射性ヨウ素は、甲状腺に取り込まれます。これは、甲状腺が、甲状腺ホルモンを作るための材料がヨウ素だからです。なお、普通のヨウ素も放射性ヨウ素も、人体にとっては全く区別はつきません。物質の性質は、放射線性であろうとなかろうと同じだからです。 ヨウ素は、人体には必要な元素ですが、日本人には欠乏はまずみられません。海藻にたっぷり含まれているからです。逆に、大陸の中央部に住む人では、ヨウ素が足りないため、「甲状腺機能低下症」など、ヨウ素欠乏症が少なくありません。チェルノブイリ周囲も、食べ物にヨウ素が少ない土地柄です。こうした環境で、突然、原発事故によって、ヨウ素(ただし、放射性ヨウ素)が出現したので、放射性ヨウ素が、住民の甲状腺に取り込まれることになりました。 ヨウ素(I2)は水に溶けやすい分子です。原発事故で大気中に散布されたヨウ素は、雨に溶けて地中にしみ込みます。これを牧草地の草が吸い取り、牛がそれを食べるという食物連鎖で、放射性ヨウ素が濃縮されていったのです。野菜より牛乳が問題なのです。結果的に、牛乳を飲んだ住民の甲状腺に放射性ヨウ素が集まりました。 放射性ヨウ素が出す“ベータ線”は、高速の電子で、X 線やガンマ線とちがって、質量があるため、物とぶつかるとすぐ止まってしまいます。放射性ヨウ素(I-131)の場合、放射されるベータ線は、2 ミリくらいで止まってしまいますから、甲状腺が“選択的”に照射されるわけです。放射性ヨウ素(I-131)を飲む「放射性ヨウ素内用療法」は、結果的には“ピンポイント照射”の一種だと言えます。 子供たちは、大人よりミルクを飲みますし、放射線による発がんが起こりやすい傾向があるため、小児の甲状腺がんがチェルノブイリで増えたのでしょう。ただし、I-131 の半減期は約8 日です。長期間、放射性ヨウ素を含む牛乳のことを心配する必要はありません。I-131 は、ベータ線を出しながら、“キセノン”に変わっていきます。(ベータ崩壊) 8 日が半減期ですから、I-131 の量は8 日で半分、1 ヶ月で1/16 と減っていきます。3 ヶ月もすると、ほぼゼロになってしまいますから、「牛乳問題」も“期間限定”です。 【質問に対する回答】 *妊婦の方へ 放射線は、妊娠後4ヶ月以内が最も胎児に影響を与えるといわれています。100mSv未満ならばその後の胎児には影響がでないことが示されています。妊婦に関する放射線防護についてのデータは、国際放射線防護委員会がまとめています。 *内部被ばくと外部被ばく 放射線の人体への影響は、外部被ばくも内部被ばくも同等です。ただ、いったん放射性物質を体内に取り込んでしまうと、被ばくから逃れられないので、内部被ばくの方がより深刻といえます。ただ、放射性物質を体内に取り込んでも、体外に排出されたり、自然に放射能が弱まったりすることで、放射線の影響も弱まっていきます。 *放射性ヨードに関して 原発から飛散される放射性物質としてヨードやセシウムが話題となっています。これらの物質を体内に取り込んで排出されるまでの時間は、物質の形態や取り込まれる体の場所によって様々です。目安としては、ヨードが甲状腺に取り込まれた場合、30日程度で半分の量が排出されます。ただし、ヨード自身は8日で半分の放射能になります。ヨードの大半は放射線を出しながら体外に出て行きます。ちなみに甲状腺に取り込まれなければ、その日のうちにほとんどが出て行きます。東大病院では、ヨードの放射線は甲状腺のがん治療にも使っています。この場合は、甲状腺にヨードを集めたいので治療の前に患者さんは、ヨードの摂取を制限されます。 *乳幼児の被ばくに関して 甲状腺に関しては、内部被ばくによって、乳幼児に発がんが増えたというデータがあります。外部被ばくに関しては、特に大人との違いは見られません。チェルノブイリの原発事故で、唯一増えたがんは、小児の甲状腺がんでした。内部被曝については、小児に影響が出やすい可能性があります。チェルノブイリ事故とちがい、今回の原発事故に近い、スリーマイル島原発事故では、小児の発がんリスクの上昇は見られませんでした。 *今回の地震対応の緊急作業者の被ばく引き上げに関して 昨日、公務員の放射線被ばくの許容範囲を100mSvから250mSvに引き上げられました。短時間で限度上限の250mSvの放射線量(蓄積)を被ばくした場合、白血球が一時的にせよ、低下する可能性があります。 *医療被ばくとは何が違うのか? 今回の事故で、CT検査などによる医療被ばくの量を初めて知った方も多いと思います。医療被ばくには上のような線量の制限を設けていません。日本国民一人当たりの医療被ばくは1年間の平均で約2~3mSvです。これは自然被ばくに匹敵する量で、世界平均に比べてもダントツに多いことが知られています。でも、日本人は世界一の長寿国ですね。もちろん、被ばくによって日本人が長生きしていると言っているのではありません。でもCTなど“被ばくする医療行為”は、日本人の長寿に少しは貢献しているのでしょう。間接的な理由で医療行為による被ばくは患者に対し利益を与えていると考えています。 では、なぜ医療被ばくには限度を設けていないのでしょう? それはCT撮影を行なう等の医療行為で受ける被ばくには、明確な利益があるからです。CTによって、早期にがんが見つかったり、良い治療方針が見つかったりすることがあり、被ばくをして生涯の発がんの確率がほんのわずかに上がることを心配するよりも(1回のCTの被ばく程度で本当に確率が上がるかどうか実はわかっていません)、あなたの生活によっぽどプラスの貢献をするでしょう。 他方、原発事故による放射能漏れの影響は、その人には全く利益をもたらしません。したがって、医療被ばくと今回の原発事故による被ばくは、本来は比べてはいけないものなのです。CTよりも多いから、少ないから、ということはあまり考えないでください。ムダな被ばくを抑えるように医療従事者は心掛けています。その観点で言えば、原発事故による被ばくは絶対に防がなければなりません。“被ばく量”という観点から言えることは、今回の事故により生じている今の放射線量は問題ない量ですので、どうか安心してください。 #
by teamnakagawa
| 2011-03-15 11:32
| 被ばくとは
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