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2011年 03月 29日
2011年3月24日に、福島第一原発作業員3名が足に大量の放射線を浴びたと報じられました。足の皮膚が受けた被ばく量は2〜3 Sv(シーベルト)であり、昨日(3月28日)無事退院されました。
原発事故に関連したニュースでよく耳にするようになった、被ばく量を表す単位Sv(シーベルト)ですが、それが「全身被ばく」で用いられたのか、はたまた「局所被ばく」で用いられたのかでは、誤解が生じてきてしまいます。 上のニュースでは、「皮膚」の被ばく量として2〜3 Sv(シーベルト)と述べています。しかし、より正確には“(局所的な)皮膚の吸収線量が2〜3 Gy(グレイ)”もしくは“皮膚の等価線量が2〜3 Sv(シーベルト)”であると記述すべきでしょう。 「全身被ばく」と「局所被ばく」の混同、専門用語で言うと「吸収線量」「等価線量」「実効線量」の混同が、こうした記述を生む原因にあるのではないかと考えられます。 被ばく量について正しく理解するためには、この「吸収線量」「等価線量」「実効線量」の3つを区別することがとても大切です。本日はその整理をしたいと考えています。 【吸収線量】 まず、「吸収線量」についてご説明します。「吸収線量」はGy(グレイ)という単位で表され、1 Gy(グレイ)とは「1キログラムあたりに放射線から受けたエネルギー(1 J〔ジュール〕= 0.24 cal〔カロリー〕)」のことです。 人間は全身に4 Gy(グレイ)の放射線を浴びると60日間で約半数が亡くなり、7 Gy(グレイ)で全員亡くなると考えられています。 体重が60kgの方が全身に4 Gy(グレイ)の放射線を浴びるということは、240ジュール = 57.6カロリーというエネルギーを受けたことになります。 1カロリーは1グラムの水を1℃上昇させます。したがって、57.6カロリーで体重60 kg(=60,000 g)の人間は、全て水であると仮定すると「1,000分の1℃」の温度上昇しかありません。 しかし、4 Gy(グレイ)の放射線は沢山のDNAを破壊してしまい、温度上昇はほとんどなくても、生命を脅かすのです。 一方、同じ量の放射線を吸収するとしても(これを「同じ吸収線量」と言いますが)、局所に被ばくするか、全身に被ばくするかで影響は全く違います。局所の被ばく量は「等価線量」、全身の被ばく量は「実効線量」で表すことができます。これらについて順を追ってみていきましょう。 【等価線量】 放射線にはα線(アルファ線)、β線(ベータ線)、γ線(ガンマ線)、中性子線など、沢山の種類があるのをみなさんはご存知でしょうか? その中で、DNAを壊す能力が高いのが、α線と中性子線です。同じ「吸収線量」の放射線を受けても、β線やγ線に比べてDNAが破壊されやすいのです。α線を出す放射性物質にはプルトニウムやウランなどがあります。 DNAに対する破壊能力を数値化したものが“放射線荷重(加重)係数”と呼ばれるものです。 β線やγ線は1、陽子線は5、α線は20、中性子線はその速度に応じて5~20(速度の遅い中性子線が高い殺傷能力を示します)の値を持ちます。この影響を加味したものが「等価線量」と言われるものです。すなわち、 (等価線量)=(放射線荷重係数)×(吸収線量) です。「等価線量」はSv(シーベルト)で表し、人体の“組織ごと”に被ばくした線量を与えることができます。例えば、甲状腺に対する被ばくを考える場合には、この「等価線量」が使われます(甲状腺等価線量と呼びます)。全身被ばくを考えるときには、次の実効線量が使われます。 【実効線量】 「実効線量」も「等価線量」と同じくSv(シーベルト)で表されます。「実効線量」は「体全体のダメージの程度」を表します。 私たち(@team_nakagawa)がTwitterなどでこれまで「被ばく量」として表現してきたものが、この「実効線量」に相当します。「実効線量」は各組織の「等価線量」に“組織荷重(加重)係数”を掛け、それを総和したものになります。 (実効線量)=Σ(組織荷重係数)×(等価線量) ここで国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告にある組織荷重係数は、 生殖腺:0.2 骨髄、胃、肺、結腸:0.12 膀胱、乳房、肝臓、食道、甲状腺:0.05 皮膚、骨表面:0.01 残りの組織:0.05 となります。(全ての組織の“組織荷重係数”を足すと1になります。) ※なお、日本国内の各法令は1990年勧告にある組織荷重係数に従っていますが、今後日本国内でも2007年勧告を取り入れるための準備が進められています。 【例1】 ラドンは気体であり、呼吸によって肺(組織荷重係数0.12)に取り込まれます。ラドンから発せられる放射線(α線の放射線荷重係数は20)によって、肺が0.5m Gy(グレイ)の吸収線量を受けたとします。その場合、肺等価線量と実効線量はそれぞれ20×0.5 = 10m Sv、10×0.12 = 1.2m Svとなります。 【例2】 例1のラドンとともにヨウ素を取り込んで、甲状腺が0.5m Gyの吸収線量を受けたとします。甲状腺等価線量とラドン+ヨウ素による実効線量はそれぞれ1×0.5 = 0.5 mSv、1.2 + 0.5×0.05 = 1.225 mSvとなります。 今後ニュース等で“何mSv(ミリシーベルト)”などと聞こえたときには、それが「等価線量」を意味しているものなのか、それとも「実効線量」を意味しているものなのか、ぜひ注意を払っていただければと思います。 #
by teamnakagawa
| 2011-03-29 21:22
| 被ばくとは
2011年 03月 29日
Twitterの「@team_nakagawa」の一連のtweetsをまとめて再編集したものをupします。今後、更新する際には、お知らせ致します。
(3/30更新:PDFからブログに転載しました) 福島原発における放射線被ばくの解説 (Twitter投稿日:3/20以前) Cs(セシウム)による被ばくの影響について (Twitter投稿日:3/21) 「放射能(Bq:ベクレル)」から「被ばく量(Sv:シーベルト)」への変換について (Twitter投稿日:3/21) 放射線の妊婦・胎児への影響について (Twitter投稿日:3/23) 水道水中のヨウ素からの被ばくについて (Twitter投稿日:3/24) #
by teamnakagawa
| 2011-03-29 16:17
2011年 03月 29日
今回の福島第一原子力発電所の事故に対して、国際放射線防護委員会が「緊急時における一時的な回避線量」について勧告をおこなっています。この勧告では、現在のような緊急事態において一時的に市民の被ばくが20-100mSvになるように上限を定め、原発事故が制御された以降、上限を年間1-20mSvとし、元の上限である1mSvに戻すよう長期的目標を定めることを勧告しています。また救助隊員の線量回避レベルについても勧告しています。
以下をご参照ください。 <INTERNATIONAL COMMISSION ON RADIOLOGICAL PROTECTION> (ICRP March 21, 2011)原文 (ICRP 2011 3月21日)日本語訳(非公式) ※日本語版を用意いたしましたが、正確な内容等には原文のご確認をお願います。 以下は、日本学術会議が出した和訳です。 http://www.scj.go.jp/ja/info/jishin/pdf/t-110405-3j.pdf #
by teamnakagawa
| 2011-03-29 13:55
| その他
2011年 03月 29日
みなさま
未曾有の原発事故に直面している「ゼロリスク社会ニッポン」。 まず、「放射線のひみつ」を知って頂き、その上で、みずから、この問題を考えて頂きたい。そんな願いから、Twiiter(@team_nakagawa)を立ち上げました。 現在、24万にちかい方からフォローされてますが、Twitterという形式(だけ)では、誤解や混乱を招くことも分かりました。 Twitterの限界は、多数のフォロワーのみなさんからもご指摘を受けてきたことでもあり、本日から、ブログ形式で、情報発信を開始します。 もちろん、Twitterも継続して、随時、更新のお知らせなどをする他、折に触れた「つぶやき」も継続して、投稿する予定です。どうぞ、よろしく! 2011.3.29 @team_nakagawa / 東大病院放射線治療チーム(中川恵一) #
by teamnakagawa
| 2011-03-29 13:54
| その他
2011年 03月 24日
(twitter更新日2011.3.24の再掲)
3月23日、東京都葛飾区金町にある都の浄水場の水から210Bq/L(1リットルあたり210ベクレル)の放射性ヨウ素131が検出されました。 水道水中の放射性ヨウ素濃度の上昇は、空気中のヨウ素が昨日の雨と共に江戸川などの河川に流れ込んだことによると考えられます。 原子力安全委員会が定めた飲食物摂取制限に関する指標値は、300Bq/Lとなっており、210Bq/Lは基準内です。ただし、食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な指標値の100Bq/Lを超えてしまっています。 このため、東京都は、23区と武蔵野市、町田市、多摩市、稲城市、三鷹市の都民に対して、乳児に限って水道水の摂取を控えるよう呼びかけました。(注1をご参照ください。) これを検証しましょう。もし210Bq/Lが長期間続くと仮定し、成人でがこの水を毎日1リットル飲むとすると、約1年間飲み続けた場合に1ミリシーベルトに達します。本来は、ヨウ素は「崩壊」によってどんどん減っていくので、実際はもっと少ない被ばく量になります。 人体に被ばくの影響が出てくると言われている線量は100ミリシーベルト(累積)です。つまり、210Bq/L(1リットルあたり210ベクレル)のヨウ素が含まれる水道水は、一年間飲み続けても、人体に被ばくの影響が出てくる線量の1/100程度ですから、問題のないレベルであることが分かると思います。 胎児と乳児でも、少なくとも10ミリシーベルト(累積)以上の被ばくがないと、身体的な影響が生じないことが知られています。乳児の場合、粉ミルクなどで、一日1L飲むとすると、約1年で、やっと10ミリシーベルトに達する計算になります。 3月23日以降、水道水を飲み続けていると心配される方がおられるかもしれませんが、上で示したように、乳幼児、成人ともに、全く問題のないレベルです。 (注1) 23日以降、国の指標を上回る放射性の「ヨウ素131」が検出された自治体では、26日までにいずれも数値が国の指標を下回りました。3月29日現在では、福島県の一部の自治体以外、乳児に対する摂取制限はいずれも解除されています。 【水道水の煮沸によるヨウ素低減の効果の有無について】 放射性ヨウ素131に汚染された水道水を「煮沸」(しゃふつ)することについて、私たちは、当初の見解を撤回しました(3月24日)。その上で、煮沸を「ただちに止めるよう」お願いいたしました。(以下に続く、一連の投稿をご参照ください: http://bit.ly/fgt5jw) 3月24日来、多数の方から、「水を煮沸することで、水中の放射性ヨウ素の濃度が上がるため、煮沸は好ましくない、というのであれば、調理・料理もやめるべきではないだろうか」というお問い合わせを多数頂戴していますので、お答えしたく存じます。 我々は、放射線医学総合研究所の環境放射線能の専門家にお願いし、煮沸による水道水のヨウ素濃度変化を検証する“実験”を行いました。その結果、煮沸することによって、ヨウ素があまり気化せず、水だけが気化し、水道水のヨウ素濃度は高くなる、という結果になりました。 ただ、注意すべきは、煮沸によって水道水のヨウ素濃度が高くなる、といっても、煮沸した水に含まれるヨウ素の全体量が増えるわけではありません。水が蒸発により減っただけですので、煮沸した水を全部飲んだとしても、ヨウ素の摂取量は、煮沸前後でほとんど変化がない、ということを理解して頂けたらと思います。 つまり、煮沸によって水道水中のヨウ素の全体量が減らせるわけではないので、わざわざ普段以上の時間をかけて余計に煮沸する必要性は全くありません。調理、料理、哺乳びんの煮沸、消毒等、普段通り行って頂けたらと思います。 また、大前提として、人体に影響の出てくると言われている被ばく量100ミリシーベルト(累積)に比べると、今水道水中の放射性ヨウ素からの被ばく量は、【水道水中のヨウ素からの被ばくについて】で示したように、健康に影響を与えるレベルではないことを重ねてご理解頂ければと思います。 #
by teamnakagawa
| 2011-03-24 15:25
| 被ばくとは
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