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2011年 03月 29日
放射線が生物に与える影響には、「確率的影響」と「確定的影響」があります。「確率的影響」は、ズバリ、「発がん」のことです。放射線による発がんは、がんの発生に関わる遺伝子(DNA)が放射線により障害を受けることで起こります。(注1)
注1: 確率的影響には遺伝的影響(子孫に対する影響)も含まれます。しかし、これは動物実験で認められたことがあるものの、原爆被爆者を中心とした長年の詳細な研究にも関わらず、ヒトでは認められたことがありません。 「確率的影響」=「発がん」が起こる確率は、ごくわずかな量の被ばくであっても上昇し、被ばくした放射線の量に応じて増加すると考えられています。これ以下の線量であれば、大丈夫という“境目”=「しきい値(閾値)」がないのです。しかし、実効線量で100~150mSv(ミリシーベルト)未満の放射線被ばく(蓄積)では、発がんの確率が増すかどうか、はっきりした証拠はありません。 (注2)(参考: http://www.rerf.or.jp/rerfrad.pdf) 注2: 国際放射線防護委員会(ICRP)などでは、実効線量で100mSv(ミリシーベルト)未満でも線量に従って、一定割合で発がんが増加するという「考え方」を採用しています。これは、100mSv(ミリシーベルト)以下でも発がんリスクが増えると考える方が、被ばくが想定される者にとって「より安全」であるという理由によるものです。 さて、実効線量で100mSv~150mSv(ミリシーベルト)以上の被ばくになると、がんで死亡する確率(生涯累積がん死亡リスク)が増していきますが、100mSv(ミリシーベルト)で0.5%の上乗せにすぎません。200mSv(ミリシーベルト)では1%と、線量が増えるにつれ、確率は“直線的に”増えるとされています。 日本人の生涯累積がん死亡リスクは、2009年データに基づくと、男性26%、女性16%になりますから、男性の場合、100mSvの被ばくで、がんで死ぬ確率が、26%から26.5%に増加することになります。(ICRPのデータは、男女別に計算されていないため、見かけ上、男女の感受性に差があることになります) もう一つ、「確率的影響」と区別しなければならない生物に対する放射線の影響とは、「確定的影響」です。こちらは、白血球が減ったり、生殖機能が失われたりするものです。この「確定的影響」は、放射線で細胞が死ぬことによって起こります。逆に、(確率的影響である)発がんは、死なずに生き残った細胞に対する影響と言えます。「発がん」以外のすべての影響は、確定的影響です。 私たちのカラダは60兆個の細胞から出来ており、毎日、毎日、その1-2%が死ぬと言われています。60兆個の1%とすると、毎日6,000億個が死ぬ計算です。しかし、そのことを私たちは何も“感じて”いません。 放射線によって、“自然死”以上に細胞が死んでも、被ばく線量が高くなって、死ぬ細胞の数が、あるレベルに達するまでは、障害は見られません。生き残っている細胞が、組織や臓器の働きを補(おぎな)えるからです。 死亡する細胞が増えて、生き残った細胞が、死んだ細胞を補えなくなる放射線の量が「しきい値(閾値)」です。放射線の量が、しきい値に達すると障害が現れますが、それ以下であれば大丈夫というわけです。わずかな量の放射線を浴びても発生する確率的影響と、ある程度の放射線を浴びないと発生しない確定的影響(白血球の減少、生殖機能の喪失など)は違うのです。 3月24日、3人の作業者の方が、足の皮膚に等価線量として数Sv(シーベルト)、言い換えれば、数千mSv(ミリシーベルト)、つまり、数百万μSv(マイクロシーベルト)の放射線を浴びたと報じられました。3Sv(シーベルト)以下であれば、皮膚の症状(放射線皮膚炎)はまず見られません。しきい値に達しないからです。 白血球が減り始めるのは実効線量で250mSv(ミリシーベルト、蓄積)程度からです。この線量が、すべての「確定的影響」のしきい値です。つまり、これ以下の線量では、確定的影響は現れないと言えます。 そして、私たち一般市民が実効線量で250mSv(ミリシーベルト)といった大量の被ばくをすることは想定できません。私たちが心配すべきは、「確率的影響」つまり、発がんリスクの上昇です。その他のことは、問題になりません。このことを皆様との共通認識としておくことはとても大事なことと思いブログに記載いたしました。 参考文献: ・The 2007 Recommendations of the International Commission on Radiological Protection: ICRP Publication 103. Ann ICRP 37, 1-332 (2007). ・Low-dose extrapolation of radiation-related cancer risk: ICRP publication 99. Ann ICRP 35, 1-140 (2005). ・UNSCEAR, 2000. Sources and Effects of Ionizing Radiation. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation Report to the General Assembly with Scientific Annexes.Vol. II: E United Nations, New York, NY. ・UNSCEAR, 2001. Hereditary Effects of Ionizing Radiation. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation Report to the General Assembly with Scientific Annexes. United Nations, New York, NY. [訂正(2011.8.4)] 学習院大学の田崎晴明先生をはじめとする皆様からご指摘を頂き、記事を訂正しました。「発がんリスク」ではなく、正しくは「生涯累積がん死亡リスク」とすべきでした。お詫びして訂正します。訂正に時間を要したことについてもお詫びします。 [削除した文章] さて、実効線量で100mSv~150mSv(ミリシーベルト)以上の被ばくになると、発がんの確率が増していきますが、100mSv(ミリシーベルト)で0.5%の上乗せにすぎません。200mSv(ミリシーベルト)では1%と、線量が増えるにつれ、確率は“直線的に”増えるとされています。 しかし、日本人の2人に1人が、がんになりますので、もともとの発がんリスクは約50%もあります。この50%が、50.5%あるいは51%に高まるというわけです。 [差し替えた文章] さて、実効線量で100mSv~150mSv(ミリシーベルト)以上の被ばくになると、がんで死亡する確率(生涯累積がん死亡リスク)が増していきますが、100mSv(ミリシーベルト)で0.5%の上乗せにすぎません。200mSv(ミリシーベルト)では1%と、線量が増えるにつれ、確率は“直線的に”増えるとされています。 日本人の生涯累積がん死亡リスクは、2009年データに基づくと、男性26%、女性16%になりますから、男性の場合、100mSvの被ばくで、がんで死ぬ確率が、26%から26.5%に増加することになります。(ICRPのデータは、男女別に計算されていないため、見かけ上、男女の感受性に差があることになります) ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-29 21:57
| 被ばくとは
2011年 03月 29日
ニュース等の報道で耳にする機会が多くなった、飲食物摂取制限に関する「暫定(ざんてい)規制値」の意味、また「暫定規制値」を決める根拠について多数のご意見•ご質問を頂いています。
ここでは特に、放射性ヨウ素の暫定規制値がどのように決められているかを文献に沿って、私たちが知りうる範囲でなるべくわかりやすく解説します。 ※なお、参考にした文献は以下のもので、引用した数値もこの文献から引用しています。 ・「飲食物摂取制限に関する指標について」(平成10年3月6日原子力安全委員会原子力発電所等周辺防災対策専門部会環境ワーキンググループ) ・「日本の防災指針における飲食物摂取制限指標の改定について」(須賀新一、市川龍資、保健物理35(4),449-466(2000)) これらは、国際放射線防護委員会(ICRP)、国際原子力機関(IAEA)等の考え方に基づいています(詳細は以下を参照ください)。 ・国際放射線防護委員会(ICRP)〔英文〕 http://www.icrp.org/ ・国際原子力機関(IAEA)〔英文〕 http://www.iaea.org/ 【公衆における放射線被ばくの許容値(緊急時)】 現在(2011年3月29日)日本での公衆の放射線量の許容値(緊急時)は、実効線量が、1年間あたり5mSv(ミリシーベルト)、放射性ヨウ素(I-131, I-132, I-133, I-134, I-135など)は主に甲状腺への影響が支配的なので、甲状腺等価線量の場合は50mSv(ミリシーベルト)と規定されています。 ここでは放射性ヨウ素について説明しますので、甲状腺等価線量で以下お話を進めていきます。 まず、日本での放射性ヨウ素の暫定規制値が、甲状腺等価線量50mSvからどのように求められたかを説明します。 【飲食物摂取制限指標の考え方】 ヨウ素は様々な食品からとりこまれますが、その2/3を「飲料水」(水)、「牛乳・乳製品」(牛乳等)、「野菜(根菜や芋類を除く)」(菜類)から取り込むと考えます。 すなわち、甲状腺等価線量の上限である1年間あたり50mSvを被ばくした場合、そのうち33.3mSvを「水、牛乳等、菜類」から摂取したと考えます。 その寄与が均等であると仮定して、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから1年間あたり11.1mSvを被ばくの上限と考えます。 成人、幼児、乳児に対する放射性ヨウ素の摂取制限量は次のように求めます。まず、年齢階級により「甲状腺等価線量換算係数」と摂取する飲食物の「種類と量」に違いがあります。 なお、「甲状腺等価線量換算係数」とは、次のものです。まず、「1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量」が「1Bq(ベクレル)」。この係数は、「1Bq(ベクレル)」あたり、どれだけの「放射能と放射線の生物に対する影響の度合い」(mSv〔ミリシーベルト〕)をもつか、を示すものです。 それぞれの甲状腺等価線量換算係数(mSv/Bq)と、1日あたりに摂取する飲食物の量(キログラム)は以下を用いています。 甲状腺等価線量換算係数(mSv/Bq)(放射性ヨウ素131〔I-131〕の場合) 成人0.00043幼児0.0021乳児0.0037 水の摂取量(kg/day)〔1日あたりのkg数〕 成人1.65幼児1.0乳児0.71 牛乳等の摂取量(kg/day) 成人0.2 幼児0.5乳児0.6 菜類の摂取量(kg/day) 成人0.4幼児0.17乳児0.07 1年間の甲状腺被ばく上限値11.1mSv(ミリシーベルト)に対して、「成人、幼児、乳児」の、「水、牛乳等、菜類」で許容される1キログラムあたりの放射能(ベクレル〔Bq/kg〕)は、時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式を用い、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから、1年間あたり11.1mSv(ミリシーベルト)を被ばくの上限として、「許容放射能量」を決めています。 また、本来は市場における希釈や加工による除染などの効果もありますが、より厳しい制限をかける為に、これらは考慮していません。放射性ヨウ素については以下の数値となります(I-131, I-132, I-133, I-134, I-135をすべて含む)。許容放射能量ですので、単位は「Bq/kg」です。 水 成人1,270 幼児424 乳児322 牛乳成人10,000 幼児849 乳児382 菜類成人5,220 幼児2,500 乳児3,280 暫定規制値は“一番小さい値を超えないように”決められます。言い換えれば、水や牛乳の暫定規制値は、乳児がそれらを摂取して1年間で11.1mSvを超えないように決められ、同様に、菜類は幼児がそれを摂取して1年間で11.1mSvを超えないように決められます。結果として「飲食物摂取制限に関する指標について」では、暫定規制値として1キログラムあたり、以下のように決めています。許容放射能量ですので、ここでも、単位は「Bq/kg」です。 暫定規制値 水 300 牛乳等300 菜類2,000 【海外では】 ICRP(国際放射線防護委員会)では、原子力災害発生時(緊急時)の勧告を出しています。比較のため、飲料水1キログラムあたりの摂取制限量を見てみましょう。世界保健機関(WHO)からの提言にあるとおり、「緊急介入レベル」(Operational Intervention Levels (OIL's))では、放射性ヨウ素131(I-131)だけでも3,000 Bq/kgとなっています。 たったいま示したように、日本では、300Bq/kgですので、大きな違いがあることがわかると思います。これは、1年間の甲状腺被ばく上限値の違いや、飲食物の摂取量の違いに原因があると考えられます。 他方、緊急時における乳幼児に対する上限は、WHOでも100Bq/kgとなっています(WHO Radiation emergencies)。この値は、今回の事故に伴う対応として厚労省から通知された、乳児による水道水の摂取制限量と同じになります。 詳細をお望みの方は、以下が参考になると思います。 ・WHO SITREP NO13 http://www.wpro.who.int/NR/rdonlyres/55CDFAF4-220A-4709-A886-DF2B1826D343/0/JapanEarthquakeSituationReportNo1322March2011.pdf ・IAEA Safety Standards http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1467_web.pdf ・WHO Radiation emergencies http://www.who.int/ionizing_radiation/a_e/en/Radiation_emergency_guidelines.pdf 【付記】 なお、乳幼児のお子様を持つご家族の方、妊娠されている方は、飲食物に放射性物質が検出されたことによって大変な不安を持たれたことと思います。 この点に関しまして、専門の学会が見解を出されておりますので、それらを参照しながら冷静に対処していくことが、お子様の健康にとっても大変大切なことになると思います。以下を参照ください。 「食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な指標値100Bq/キログラムを超過する濃度の放射性ヨウ素が測定された水道水摂取」に関する、日本小児科学会、日本周産期・新生児医学会、日本未熟児新生児学会の共同見解 http://www.jspnm.com/Shinsai/docs/d110325_3.pdf 日本医学放射線学会 「妊娠されている方、子供を持つご家族の方へ−水道水の健康影響について」 ttp://www.radiology.jp/modules/news/article.php?storyid=912 ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-29 21:26
| 被ばくとは
2011年 03月 29日
2011年3月24日に、福島第一原発作業員3名が足に大量の放射線を浴びたと報じられました。足の皮膚が受けた被ばく量は2〜3 Sv(シーベルト)であり、昨日(3月28日)無事退院されました。
原発事故に関連したニュースでよく耳にするようになった、被ばく量を表す単位Sv(シーベルト)ですが、それが「全身被ばく」で用いられたのか、はたまた「局所被ばく」で用いられたのかでは、誤解が生じてきてしまいます。 上のニュースでは、「皮膚」の被ばく量として2〜3 Sv(シーベルト)と述べています。しかし、より正確には“(局所的な)皮膚の吸収線量が2〜3 Gy(グレイ)”もしくは“皮膚の等価線量が2〜3 Sv(シーベルト)”であると記述すべきでしょう。 「全身被ばく」と「局所被ばく」の混同、専門用語で言うと「吸収線量」「等価線量」「実効線量」の混同が、こうした記述を生む原因にあるのではないかと考えられます。 被ばく量について正しく理解するためには、この「吸収線量」「等価線量」「実効線量」の3つを区別することがとても大切です。本日はその整理をしたいと考えています。 【吸収線量】 まず、「吸収線量」についてご説明します。「吸収線量」はGy(グレイ)という単位で表され、1 Gy(グレイ)とは「1キログラムあたりに放射線から受けたエネルギー(1 J〔ジュール〕= 0.24 cal〔カロリー〕)」のことです。 人間は全身に4 Gy(グレイ)の放射線を浴びると60日間で約半数が亡くなり、7 Gy(グレイ)で全員亡くなると考えられています。 体重が60kgの方が全身に4 Gy(グレイ)の放射線を浴びるということは、240ジュール = 57.6カロリーというエネルギーを受けたことになります。 1カロリーは1グラムの水を1℃上昇させます。したがって、57.6カロリーで体重60 kg(=60,000 g)の人間は、全て水であると仮定すると「1,000分の1℃」の温度上昇しかありません。 しかし、4 Gy(グレイ)の放射線は沢山のDNAを破壊してしまい、温度上昇はほとんどなくても、生命を脅かすのです。 一方、同じ量の放射線を吸収するとしても(これを「同じ吸収線量」と言いますが)、局所に被ばくするか、全身に被ばくするかで影響は全く違います。局所の被ばく量は「等価線量」、全身の被ばく量は「実効線量」で表すことができます。これらについて順を追ってみていきましょう。 【等価線量】 放射線にはα線(アルファ線)、β線(ベータ線)、γ線(ガンマ線)、中性子線など、沢山の種類があるのをみなさんはご存知でしょうか? その中で、DNAを壊す能力が高いのが、α線と中性子線です。同じ「吸収線量」の放射線を受けても、β線やγ線に比べてDNAが破壊されやすいのです。α線を出す放射性物質にはプルトニウムやウランなどがあります。 DNAに対する破壊能力を数値化したものが“放射線荷重(加重)係数”と呼ばれるものです。 β線やγ線は1、陽子線は5、α線は20、中性子線はその速度に応じて5~20(速度の遅い中性子線が高い殺傷能力を示します)の値を持ちます。この影響を加味したものが「等価線量」と言われるものです。すなわち、 (等価線量)=(放射線荷重係数)×(吸収線量) です。「等価線量」はSv(シーベルト)で表し、人体の“組織ごと”に被ばくした線量を与えることができます。例えば、甲状腺に対する被ばくを考える場合には、この「等価線量」が使われます(甲状腺等価線量と呼びます)。全身被ばくを考えるときには、次の実効線量が使われます。 【実効線量】 「実効線量」も「等価線量」と同じくSv(シーベルト)で表されます。「実効線量」は「体全体のダメージの程度」を表します。 私たち(@team_nakagawa)がTwitterなどでこれまで「被ばく量」として表現してきたものが、この「実効線量」に相当します。「実効線量」は各組織の「等価線量」に“組織荷重(加重)係数”を掛け、それを総和したものになります。 (実効線量)=Σ(組織荷重係数)×(等価線量) ここで国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告にある組織荷重係数は、 生殖腺:0.2 骨髄、胃、肺、結腸:0.12 膀胱、乳房、肝臓、食道、甲状腺:0.05 皮膚、骨表面:0.01 残りの組織:0.05 となります。(全ての組織の“組織荷重係数”を足すと1になります。) ※なお、日本国内の各法令は1990年勧告にある組織荷重係数に従っていますが、今後日本国内でも2007年勧告を取り入れるための準備が進められています。 【例1】 ラドンは気体であり、呼吸によって肺(組織荷重係数0.12)に取り込まれます。ラドンから発せられる放射線(α線の放射線荷重係数は20)によって、肺が0.5m Gy(グレイ)の吸収線量を受けたとします。その場合、肺等価線量と実効線量はそれぞれ20×0.5 = 10m Sv、10×0.12 = 1.2m Svとなります。 【例2】 例1のラドンとともにヨウ素を取り込んで、甲状腺が0.5m Gyの吸収線量を受けたとします。甲状腺等価線量とラドン+ヨウ素による実効線量はそれぞれ1×0.5 = 0.5 mSv、1.2 + 0.5×0.05 = 1.225 mSvとなります。 今後ニュース等で“何mSv(ミリシーベルト)”などと聞こえたときには、それが「等価線量」を意味しているものなのか、それとも「実効線量」を意味しているものなのか、ぜひ注意を払っていただければと思います。 ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-29 21:22
| 被ばくとは
2011年 03月 29日
Twitterの「@team_nakagawa」の一連のtweetsをまとめて再編集したものをupします。今後、更新する際には、お知らせ致します。
(3/30更新:PDFからブログに転載しました) 福島原発における放射線被ばくの解説 (Twitter投稿日:3/20以前) Cs(セシウム)による被ばくの影響について (Twitter投稿日:3/21) 「放射能(Bq:ベクレル)」から「被ばく量(Sv:シーベルト)」への変換について (Twitter投稿日:3/21) 放射線の妊婦・胎児への影響について (Twitter投稿日:3/23) 水道水中のヨウ素からの被ばくについて (Twitter投稿日:3/24) ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-29 16:17
2011年 03月 29日
今回の福島第一原子力発電所の事故に対して、国際放射線防護委員会が「緊急時における一時的な回避線量」について勧告をおこなっています。この勧告では、現在のような緊急事態において一時的に市民の被ばくが20-100mSvになるように上限を定め、原発事故が制御された以降、上限を年間1-20mSvとし、元の上限である1mSvに戻すよう長期的目標を定めることを勧告しています。また救助隊員の線量回避レベルについても勧告しています。
以下をご参照ください。 <INTERNATIONAL COMMISSION ON RADIOLOGICAL PROTECTION> (ICRP March 21, 2011)原文 (ICRP 2011 3月21日)日本語訳(非公式) ※日本語版を用意いたしましたが、正確な内容等には原文のご確認をお願います。 以下は、日本学術会議が出した和訳です。 http://www.scj.go.jp/ja/info/jishin/pdf/t-110405-3j.pdf ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-29 13:55
| その他
2011年 03月 29日
みなさま
未曾有の原発事故に直面している「ゼロリスク社会ニッポン」。 まず、「放射線のひみつ」を知って頂き、その上で、みずから、この問題を考えて頂きたい。そんな願いから、Twiiter(@team_nakagawa)を立ち上げました。 現在、24万にちかい方からフォローされてますが、Twitterという形式(だけ)では、誤解や混乱を招くことも分かりました。 Twitterの限界は、多数のフォロワーのみなさんからもご指摘を受けてきたことでもあり、本日から、ブログ形式で、情報発信を開始します。 もちろん、Twitterも継続して、随時、更新のお知らせなどをする他、折に触れた「つぶやき」も継続して、投稿する予定です。どうぞ、よろしく! 2011.3.29 @team_nakagawa / 東大病院放射線治療チーム(中川恵一) ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-29 13:54
| その他
2011年 03月 24日
(twitter更新日2011.3.24の再掲)
3月23日、東京都葛飾区金町にある都の浄水場の水から210Bq/L(1リットルあたり210ベクレル)の放射性ヨウ素131が検出されました。 水道水中の放射性ヨウ素濃度の上昇は、空気中のヨウ素が昨日の雨と共に江戸川などの河川に流れ込んだことによると考えられます。 原子力安全委員会が定めた飲食物摂取制限に関する指標値は、300Bq/Lとなっており、210Bq/Lは基準内です。ただし、食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な指標値の100Bq/Lを超えてしまっています。 このため、東京都は、23区と武蔵野市、町田市、多摩市、稲城市、三鷹市の都民に対して、乳児に限って水道水の摂取を控えるよう呼びかけました。(注1をご参照ください。) これを検証しましょう。もし210Bq/Lが長期間続くと仮定し、成人でがこの水を毎日1リットル飲むとすると、約1年間飲み続けた場合に1ミリシーベルトに達します。本来は、ヨウ素は「崩壊」によってどんどん減っていくので、実際はもっと少ない被ばく量になります。 人体に被ばくの影響が出てくると言われている線量は100ミリシーベルト(累積)です。つまり、210Bq/L(1リットルあたり210ベクレル)のヨウ素が含まれる水道水は、一年間飲み続けても、人体に被ばくの影響が出てくる線量の1/100程度ですから、問題のないレベルであることが分かると思います。 胎児と乳児でも、少なくとも10ミリシーベルト(累積)以上の被ばくがないと、身体的な影響が生じないことが知られています。乳児の場合、粉ミルクなどで、一日1L飲むとすると、約1年で、やっと10ミリシーベルトに達する計算になります。 3月23日以降、水道水を飲み続けていると心配される方がおられるかもしれませんが、上で示したように、乳幼児、成人ともに、全く問題のないレベルです。 (注1) 23日以降、国の指標を上回る放射性の「ヨウ素131」が検出された自治体では、26日までにいずれも数値が国の指標を下回りました。3月29日現在では、福島県の一部の自治体以外、乳児に対する摂取制限はいずれも解除されています。 【水道水の煮沸によるヨウ素低減の効果の有無について】 放射性ヨウ素131に汚染された水道水を「煮沸」(しゃふつ)することについて、私たちは、当初の見解を撤回しました(3月24日)。その上で、煮沸を「ただちに止めるよう」お願いいたしました。(以下に続く、一連の投稿をご参照ください: http://bit.ly/fgt5jw) 3月24日来、多数の方から、「水を煮沸することで、水中の放射性ヨウ素の濃度が上がるため、煮沸は好ましくない、というのであれば、調理・料理もやめるべきではないだろうか」というお問い合わせを多数頂戴していますので、お答えしたく存じます。 我々は、放射線医学総合研究所の環境放射線能の専門家にお願いし、煮沸による水道水のヨウ素濃度変化を検証する“実験”を行いました。その結果、煮沸することによって、ヨウ素があまり気化せず、水だけが気化し、水道水のヨウ素濃度は高くなる、という結果になりました。 ただ、注意すべきは、煮沸によって水道水のヨウ素濃度が高くなる、といっても、煮沸した水に含まれるヨウ素の全体量が増えるわけではありません。水が蒸発により減っただけですので、煮沸した水を全部飲んだとしても、ヨウ素の摂取量は、煮沸前後でほとんど変化がない、ということを理解して頂けたらと思います。 つまり、煮沸によって水道水中のヨウ素の全体量が減らせるわけではないので、わざわざ普段以上の時間をかけて余計に煮沸する必要性は全くありません。調理、料理、哺乳びんの煮沸、消毒等、普段通り行って頂けたらと思います。 また、大前提として、人体に影響の出てくると言われている被ばく量100ミリシーベルト(累積)に比べると、今水道水中の放射性ヨウ素からの被ばく量は、【水道水中のヨウ素からの被ばくについて】で示したように、健康に影響を与えるレベルではないことを重ねてご理解頂ければと思います。 ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-24 15:25
| 被ばくとは
2011年 03月 22日
(twitter更新日2011.3.23の再掲)
多くのご質問をいただいている、放射線の「妊婦・胎児への影響」について、お話しします。 妊娠中、「器官形成期」と呼ばれる妊娠初期の2か月間がとくに放射線の影響を受けやすいのです。また、妊娠2か月以降の「胎児期初期」も比較的影響を受けやすいとされています。 放射線が胎児に及ぼす影響には、奇形、胎児の致死、成長の遅延などがあります。ただし、少なくとも10~20万マイクロシーベルト(累積)以上の放射線被ばくがないと、これらの影響は生じないことが知られています。 また、受胎(妊娠)前に被ばくしても、それが原因となって、胎児・子供に影響が出た、ということは報告されていません。 このことは、国際放射線防護委員会の勧告「妊娠と医療放射線」に示されています。http://bit.ly/hC5pC6 要旨には「胎児が浴びた放射線の総量が100ミリグレイ(=10万マイクロシーベルト)以下では、放射線リスクから判断して妊娠中絶は正当化されない」と書かれています。 国際放射線防護委員会の勧告は、CTなど医療で使用する放射線による、短時間での被ばくを想定したものものです。原発から放出される放射線のように、長時間かけてゆっくり被ばくした場合には、被ばく中にDNAの回復が起きるため、短時間での被ばくよりもはるかに影響が出にくいことも知られています。 したがって、現状では、少なくとも避難地域や屋内退避地域以外であれば、胎児への影響はまず心配しなくてよいでしょう。ただし、みなさんご存知のように、自然被ばく(原発事故がなくても、私たちが宇宙や大地や食料から受けている放射線)のレベルでも、奇形や小児発がんは、皆無ではありません。 ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-22 15:19
| 被ばくとは
2011年 03月 20日
(twitter更新日2011.3.21の再掲)
放射性ヨウ素(I)やセシウム(Cs)による内部被ばくによって、具体的にどの程度の健康被害が起きるのでしょうか。内部被ばくについて考える前に、「放射能(Bq:ベクレル)」と「被ばく量(Sv:シーベルト)」の違いについて見てみましょう。 Bq(ベクレル)というのは、一秒間あたりの放射性物質の崩壊数を表します。いわば「放射能」のことです。「崩壊」を理解するには、Cs-137を例に、東京大学の早野龍五先生が作成くださった図を参照ください(図1)。 ![]() 例えば、放射線物質であるCs-137(セシウム137)は、安定なCs-133に比べて中性子の数が多過ぎ、一個の中性子が陽子に変わります。これをベータ崩壊と言います(図1参照)。 Cs-134(セシウム134)も同様です。 一方、崩壊した時に出てくるベータ線やガンマ線(放射線)が、人体に与えるダメージを「被ばく量(Sv:シーベルト)」で表しています。 「放射能(Bq:ベクレル)」と「被ばく量(Sv:シーベルト)」は密接な関係にあります。放射能が増えると被ばく量も当然増えます。 食物に含まれる「放射能(Bq:ベクレル)」が、それを摂取する私たちにどれだけ「被ばく量(Sv:シーベルト)」を与えるかは、放射性物質の種類、取り込み方(吸引か経口か)、私たちの年齢などによって変わります。(表1参照) ![]() p.36 別表4:実効線量及び甲状腺等価線量への換算係数表(mSv/Bq) (但し、Cs-137において、1.3×10-4 → 1.3×10-5に訂正) これらを考慮すれば「放射能(Bq)」から「被ばく量(Sv)」に変換できます。 では、まずCs(セシウム)による被ばく量(Sv)を見積もってみましょう。 Cs-134(セシウム134)は、3月16日8時に福島市で水道水中に1kgあたり25Bq(ベクレル)観測されました。それ以降は観測されていません。被ばく量に変換するためのCs-134(セシウム134)の「変換係数」は、大人で0.019μSv/Bqです。つまり、1Bq(ベクレル)で、0.019μSv(マイクロシーベルト)の被ばく量であると計算できます。 この「変換係数」は、私たちの年齢などによって変わります。では、3月16日8時に福島市での水道水を2リットル飲んだとしましょう。体内には50BqのCs-134が取り込まれます。「変換係数」を使うと0.95μSv(マイクロシーベルト)の被ばくです。同様にCs-137では、0.86μSvの被ばくです。両方足し合わせると、1.81μSvです。 3月19日、ホウレンソウに1kgあたり524Bq(ベクレル)のCs(セシウム)が観測されました。Cs-134かCs-137か内訳はわかっていませんので半分ずつだと仮定します。このホウレンソウを100g食べたとすると、トータルで0.84μSv(マイクロシーベルト)の被ばくとなります。 [ちなみに私たちは日頃から食物に含まれる放射性K(カリウム)による被ばくを受けています。それは1年で100~200μSv(マイクロシーベルト)と推定されています。] 今推定したCs(セシウム)の被ばく量は、放射性物質を一度摂取したことによって70歳になるまでに蓄積されるであろう被ばく量を表します。もちろん年齢による代謝や食生活の違いによって個人差も生じると考えられます。 ここで推定されたCs(セシウム)の被ばく量は少ないように見えますが、食品衛生法上の暫定(ざんてい)規制値を越えているのも事実です。規制値を越えた食物の流通を管理することで、国民の安全が確保されると考えています。 では、次にヨウ素I-131の被ばく量も見積もってみましょう。 放射性物質であるヨウ素I-131の「変換係数(μSv/Bq)」は、0歳で0.140、1~6歳で0.075、7~14歳で0.038、15~19歳で0.025、大人で0.016です。(乳児はお母さんの母乳から摂取するとします。) ホウレンソウ中に観測されたヨウ素-131の最大値として、1kgあたり15,020Bq(ベクレル)を用います。そのうち100gを摂取したとします。 1~6歳 :15,020×0.1×0.075 = 112.65 7~14歳 :15,020×0.1×0.038 = 57.08 15~19歳 :15,020×0.1×0.025 = 37.55 大人 :15,020×0.1×0.016 = 24.03 単位は(マイクロシーベルト)です。乳児の場合は、I-131を摂取した母親の授乳により乳児が受ける線量は母親の摂取量あたり0.054 μSv/Bq (参照:ICRPPub.94 Table 13.1) として、15,020×0.1×0.054 = 81.11μSv(マイクロシーベルト)が被ばく量となります。 乳児の方がお母さんよりも被ばくが多くなります。これは、ヨウ素が母乳で濃縮されることが理由ではありません。乳児に影響を与えるのは、摂取した母乳中のヨウ素の濃さではなく蓄積量ですから、乳児がヨウ素をお母さん以上に摂取することはあり得ません。乳児の方がお母さんよりも被ばくが多くなるのは、乳児は大人よりも臓器が小さく、また放射線に対しての感受性が高い等の理由が考えられます。お母さんが摂取を抑えることで、乳児への影響も十分小さくできると考えられます。 以上より、人体に影響の出てくると言われている被ばく量100ミリシーベルト=10万マイクロシーベルト(累積)に比べると、ホウレンソウ100gを一日食べたことによる、放射性ヨウ素、放射性セシウムからの被ばく量は、乳児、成人共に健康に影響を与えるレベルではないことをご理解頂けると思います。 今は、水道水とホウレンソウからの被ばくだけを見積もりましたが、他の食物や自然界からの放射線をすべて考慮して、被ばく量を考慮すべきということも頭に入れておく必要があります。 ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-20 17:44
| 被ばくとは
2011年 03月 20日
(twitter更新日2011.3.21の再掲)
福島第一原発の冷却システムの復旧が視野に入ってきました。(3 月21 日当時) いまだ、予断を許しませんが、仮にこのまま、新たな放射性物質の放出が減っていくとすると、これまでに飛散した放射性物質のなかで、“セシウム(Cs)”が問題となるはずです。 飛散した放射性物質のうち、最も多いのが、放射性ヨウ素(I-131)で、次が、放射性セシウムです。ただ、I-131(ヨウ素131)は8 日毎に半分になっていきますから、3 ヶ月もすれば、ほぼゼロレベルになりますが、放射性セシウムの半減期はもっと長いので問題になります。(理由は後述) 3月21日以降、かなり微量(基準値の1%程度)ですが、東京都の水道水中に、2 種類の放射性セシウム、Cs-134、Cs-137 が検出されています(健康安全研究センター@新宿区による測定)。Cs-134 の半減期は約2 年、Cs-137 では約30年です。特に、Cs-137 は土の中などに長い間存在して、放射線を出し続けます。 ただし、その量は極めて微量です。ちなみに、放射性セシウムの半減期が30 年といっても、排尿や代謝によって体外に放出されます。その結果、内部被ばくによって人体に影響を及ぼす、実効的な半減期は100 日程度といっていいのです。 放射性物質の放射能を警戒するには、その〈量=測定値〉と〈時間=半減期〉の関係を正しく理解することが重要です。3 月21 日時点での福島第一原発敷地内での放射能は、I-131(ヨウ素131)で1リットルあたり5.94(Bq:ベクレル)となっており、Cs-137(セシウム137)1リットルあたり0.022Bq よりも大きいですね。現時点ではI-131 のほうが「放射能」は強い、と言えます。 この値から、I-131(ヨウ素131)とCs-137(セシウム137)それぞれ1リットルあたりの個数を出してみましょう。答えはI-131 が600万個、Cs-137 が3300万個となります。なんと、Cs-137(セシウム137)のほうが多いのです。 I-131(ヨウ素131)は8日で半分になります。現時点での放射能は大きいけれど、3ヶ月もあればほぼなくなります。一方、Cs-137(セシウム137)が半分になるには30 年必要です。その数もI-131(ヨウ素131)に比べて初めから5倍以上多いのです。 長期的に見れば放射能もCs-137(セシウム137)のほうが多くなります。Cs-137(セシウム137)が拡散すれば持続的な被ばくにつながることが理解できると思います。 もちろん、これはあくまで原発事故が収束することを念頭に置いてのお話です。それを前提にすればヨウ素131 の影響は「期間限定」。「今」を注意することで被害を最小限にできます。問題はセシウム137です。土壌汚染や食物などによる内部被ばくをずっと意識しなければなりません。 ■
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by teamnakagawa
| 2011-03-20 14:34
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