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2011年 06月 16日
がんの「基本」を数回に分けて解説しています。今回は3回目です。(第1回、第2回)
がん細胞との闘いは、毎日5,000回も起きている 細胞が分裂するときには、元のDNAを2倍にコピーして、新しい2つの細胞に振り分けます。人間(の細胞)がやることですから、コピーのときにミスがおこることがあります。これが突然変異です。 こうした細胞は多くの場合、死にますが、ある遺伝子に突然変異がおこると、細胞は止めどもなく分裂を繰り返すことになります。 最近の研究では、がん細胞は健康な人の体でも一日に5,000個も発生しては消えていくことがわかっています。がん細胞ができるとそのつど退治しているのが免疫細胞(リンパ球)です。免疫細胞は、ある細胞を見つけると、まず自分の細胞かどうかを見極めます。そして、自分の細胞でないと判断すると、殺してしまいます。 がん細胞は、もともと私たちの正常な細胞から発生していますので、カラダの外から侵入する細菌などと比べると、免疫細胞にとって「キケンな異物」と認識できない傾向がある、と言われます。それでも免疫細胞は、できたばかりのがん細胞を攻撃して死滅させます。私たちのカラダのなかでは、毎日毎日、「5,000勝0敗」の闘いが繰り返されているのです。 聖人君子でも、がんになる しかし、年齢を重ねると、DNAのキズが積み重なってがん細胞の発生が増える一方で、免疫細胞の機能(免疫力)が落ちてきます。そのため、がん細胞に対する攻撃力が落ちる結果、発生したがんが免疫の網をかいくぐって成長する確率も増えるのです。 長生きするとがんが増えるのは、突然変異が蓄積されるのと、免疫細胞の働きが衰(おとろ)えるからなのです。がんが老化の一種、と言われるのはそのためです。がんは、一部の例外を除き遺伝しません(例外は家族性腫瘍)。むしろ「がんになる、ならない」は運の要素が大きい。 目には見えない壮絶な闘いを勝ち抜いて、ひっそりと生き残ったたった1つのがん細胞は、分裂した子孫の細胞がすべて死なない「スーパー細胞」です。 がん細胞はゆっくりと倍々ゲームで分裂を重ねていき、100万個(すべてが同じ細胞!)まで増殖すると1ミリくらいの大きさになります。検査によって発見されるまで育つには、通常10~20年以上の時間が必要です。 これが、がんが高齢の方に多いもう1つの理由。その意味では、がんは昨日今日できたものではありませんから、がんと診断されてもあわてる必要はないのです。 社会や医療環境が良くなって寿命が長くなれば、それだけがんが増える、これはやむを得ない定めです。がんになることを前提として、がんになってもあわてないように人生をとらえ、過ごす必要があるのです。 生活習慣とがん がんは、細胞のDNAにキズ(突然変異)が積み重なってできます。この突然変異は、年齢とともに自然に増えていくもので、白髪やしわのようなもの。ここまでにはすでに述べました。 しかし、どんながんができやすいかは、生活習慣にも左右されます。たとえば、乳がんや前立腺がんが増えているのは、動物性の脂肪を多く摂るようになったことが背景にあります。 冷蔵庫で胃がんが減少 これまで日本では、胃がん、子宮頸がん、肝臓がんなど、ウイルスや細菌による感染が原因となる「アジア型」のがんが多かったのですが、衛生環境の改善などで、こうした感染症型のがんによる死亡は減少に転じています。 胃がんは、ヘリコバクター・ピロリ菌などの細菌が原因の1つですから、冷蔵庫が普及して新鮮で清潔な食物を口にするようになって、減りました。 実際にアメリカでも、1930年ごろは、胃がんががん死亡のトップでした。日本より先に冷蔵庫が普及した結果、今では胃がんは白血病より少ない、珍しいがんになっているのです。 ウイルスで感染するがん 子宮頸(しきゅうけい)がん(子宮の出口の部分にできるがん)は性交渉にともなう「ヒトパピローマウイルス」の感染が主な原因で、コンドームの使用で予防できます。 また、性交渉を始める前の女の子に、このウイルスに対するワクチンを接種することによっても、予防ができます。ワクチンを打てば、その後パピローマウイルスが子宮にとりついても、免疫ができていますから感染しません。まさに、麻疹(はしか)の予防と同じ考え方です。 子宮頸がんは、20歳代で急増しています。日本でも、ようやくワクチンが承認され、昨年11月からは、中学1年生~高校1年生を対象に、公費補助もはじまりました。 ※参考:「子宮頸がんの予防(ヒトパピローマウイルスと予防ワクチン)」国立がん研究センターがん情報サービス 肝臓がんも、その大部分は肝炎ウイルスの感染が原因です。肝炎ウイルスは輸血が主な感染ルートでしたが、今ではこうしたウイルスに感染していない血液が輸血されますので、肝臓がんも減る傾向にあります。 がんの「アジア型」と「欧米型」 わが国では、高齢化によってがんの死亡はどんどん増えていますが、そのなかで2005年に死亡数が減少したのは、ここにあげた胃がん・子宮頸がん・肝臓がんという「アジア型のがん」だけなのです。 逆に、タバコが原因となる肺がんの他、動物性脂肪のとりすぎが原因と考えられる乳がん・前立腺がん・大腸がん・子宮体がんなど、「欧米型」のがんが増えています。 では、なぜ、動物性脂肪をとると、乳がん・前立腺がんなどが増えるのでしょうか? 女性ホルモン・男性ホルモンは、コレステロールを材料として体内で作られます。ですから、肉を食べなければ性ホルモンは増えません。お坊さんが精進料理を食べる理由です。統計データはないでしょうが、お坊さんには前立腺がんは少ないと推測されます。 日本女性のバストも欧米人なみになりました。これも肉を食べるようになった影響です。肉食の結果、女性ホルモンがたくさん分泌され、乳がんが増えているのです。 さて、「子だくさん」のお母さんには、乳がんができにくい。それはなぜでしょう。 妊娠中は女性ホルモンのバランスが変わります。たとえば10人の子供を出産すると、10カ月×10人=100カ月、つまり8年間近く乳がんができにくい状態が続きます。実際、未婚の女性に乳がんは多いのです。 がんを防ぐには? このように、がんは生活習慣に密接に関連しています。生活習慣病の一種と言っていい、社会を映す鏡なのです。 ただし、注意がいるのは、生活習慣が発がんのリスクを高めることはあっても、がんになるかどうかの根本は運(確率)である点です。ですから、ベジタリアンの聖人君子でも、がんになってしまう可能性はあるのです。 なお、アジア型のがんの代表である胃がんの死亡を、欧米型のがんの代表である肺がんの死亡が追い越したのは、アメリカで1950年ごろ、日本では1990年すぎです。がんの種類については、日本はアメリカに40年程度遅れているわけです。 がんにかかるかどうかは運次第、という面も否定できませんが、日常生活に気をつければ、ある程度がんを防ぐことが可能です。禁煙が第一ですが、野菜と果物を食べ、肉やお酒はほどほどにして、太りすぎないことが大事です。これでがんの約60%(禁煙で30%、食生活の工夫でさらに30%)が防げるだろうと考えられています。 タバコとがん とくに、タバコはがんの原因の3割程度を占めるもので、禁煙がもっとも効果があります。日本の喫煙率は、減ってきたとはいえ欧米の倍以上で、実は日本は世界一の「タバコ大国」。世界一の「がん大国」の一因です。 現在、日本でもっとも死亡が多いがんが肺がんです。タバコが原因の肺がんは男性で70%、女性で15%。とくに若い人の喫煙は危険で、20歳未満で喫煙を開始した人は、吸わない人の約6倍も肺がんによる死亡率が高い。 ノドのがん・胃がん・食道がん・肝臓がんなども、タバコで増えます。あまり増えないのは、大腸がんと乳がんくらいでしょう。タバコがなくなれば日本男性のがんの3割が消滅するのです。 さらに、タバコの最大の問題は間接喫煙による他人への影響です。この点は飲酒とちがいます。 (つづく)
by teamnakagawa
| 2011-06-16 04:04
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