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2011年 06月 02日
放射線被ばくパニックに、収束の見通しが立ちません。しかし、私たちは、いったい、何を怖がっているのでしょうか? あるいは、何を怖がるべきなのでしょうか?
脱毛や白血球の減少といった「確定的影響」は、福島原発の近隣を含めて、一般の方々には起こりえません。起こるとすれば、「確率的影響」すなわち「発がんリスクの上昇」です。(ヒトの場合、子孫に対する遺伝的影響は“観察されていません”。) 広島・長崎のデータでも、100ミリシーベルト以下では、発がんリスクが増えたというデータはありません。100ミリシーベルト以下の被ばくでは、がんは増えないということではなく、放射線被ばくよりはるかに発がんに影響を与える生活習慣のなかに、被ばくによるリスクが「埋没してしまう」のです。 だからといって(一部に誤解があるようなので急いで付け加えておきますが)「放射線による多少の被ばくを心配するには及ばない」などと言っているのではありません。被ばくは少ないに越したことはありません。ALARAの原則(as low as reasonably achievable)が言うとおり、放射線被ばくは「合理的に達成可能な限り低く」が大前提です。 政府によって「警戒区域」や「計画的避難区域」「緊急時避難準備区域」が設定されたのも、健康被害を最小限にとどめるための施策です。福島県の学校等において、校庭の汚染された表土の除去(や有効な対策を立てるための各種の実験)が進みつつあることも、必要なことですし、大賛成です(この点は本Blogでも主張してきました。[参照]放射性セシウムと放射性ストロンチウム、福島訪問──その1 飯舘村の特別養護老人ホーム、福島訪問──その4 対策に対する提案)。各地にモニタリングポストが設置され、積算線量を含むデータが公開されていることも重要です。対策を講じるためには(思い込みではなく)客観データが必要ですので、継続していただきたいと思っています。 実効性ある対策をどんどん講じる、衆知を結集して早急に対処する──これを確認した上で、「放射線による健康被害」について(事実上、ストレスの増加や生活の乱れに起因する健康被害を除けば、発がんリスクの上昇とイコールです)、立ち止まって考えていただきたいことがあります。 100ミリシーベルト以下の被ばくでは、がんを発症した場合、被ばくと発がんの因果関係を立証できない、ということは何を意味するか、です。低線量被ばくによる発がんリスクの上昇の有無について、諸説あることは承知していますが、科学的なコンセンサスとして、なぜ「100ミリシーベルト以下では、発がんリスクが増えたというデータはない」と言われるのか、「発がん」の基本に戻って考えてみたいのです。 具体的には、「がんとは何か」「がんを発症するメカニズム」「がんと生活習慣」「がんにならないための生活」「がんにかかった場合の治療法の選択」「緩和ケア」などを、ご説明したいと思うのです。 さて、この「まえがき」では、日本におけるがんという疾病について、基本的なことを確認しておきます。今回の福島第一原発の事故がなかったとしても、そして、原発に由来する放射線に被ばくすることがなかったとしても、わが国はもともと、世界一の「がん大国」です。2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっています。 だれだって、がんになりたくないし、がんで死にたくはありません。そのために一番“確実な”方法は、がんにならないことです。しかし、どんな「聖人君子」でもがんになり得るのです。おおざっぱに言えば、がんの原因の3分の1がタバコ、3分の1がお酒や食事や運動といった「タバコ以外の生活習慣」です。そして、残りの3分の1は「運」といってよいものです。理想的な生活でも、がんを完全に防ぐことはできません。 ですから、がんを避ける生活習慣を心がけるとともに、「運悪く」がんになっても、早期に発見して完治させる必要があります。この生活習慣(1次予防)+早期発見(2次予防)の「2段構え」が、がんで命を落とさないための特効薬なのです。 実際、がん全体の「5年生存率」(医学的には、治療によって、がんが消失してから5年経過後までに再発がない場合を「治癒」とみなします)は5割を超えていますので、がんは「不治の病」ではありませんが、早期がんで発見されれば、ほとんどの臓器のがんで、治癒率は9割以上になります。早期に見つければ、がんは怖くありません。 しかし、早期がんを発見するには、定期的な検診が不可欠です。早期がんは症状を出しませんし、がんの症状が出れば、進行・末期がんの場合が多いからです。つまり、がんで命を落とさないためには、生活習慣+がん検診が大事というわけです(すべてのがんに検診を勧めるわけではありません。詳細は残念ながら割愛せざるを得ません)。 しかし、日本人男性の4割近くがタバコを吸いますし、がん検診の受診率はざっと、2割程度にとどまります(欧米では8割近く!)。こうしたことが背景となり、欧米では年々減っているがん死亡数が、日本では、増え続けています(タバコによるがん死亡リスクの上昇は、放射線で言えば、2,000ミリシーベルト以上に相当)。 発がんを心配するのであれば、検診を受けていただきたいのです。そうでもしないと、早期発見はむずかしいからです。自覚症状が出た場合は、すでに進行がん・末期がんである場合が多い、ということが大切なポイントです。 私たちは、自分が怖がっている、放射線、そして、がんという「恐怖の対象」をよく知る必要があります。しかし、唯一の被爆国で、世界一のがん大国、日本に暮らしているにもかかわらず、私たちは相手のことをよく知りませんし、学校でも習った記憶がありません。よく考えるとヘンな話です。 このブログでは、放射線のことをずっとお話ししてきましたが、これからしばらく、「がんのひみつ」を解き明かしていきたいと思います。がんを知り、そして、放射線被ばくを正しく怖がっていただきたいと思っています。 中川恵一
by teamnakagawa
| 2011-06-02 14:53
| がんとは何か
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