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2011年 05月 13日
先月末の4月29日、東大病院放射線治療チーム(team_nakagawa)のメンバー5名(医師3名、物理士2名)で、福島県を訪問し、地域の方との対話や飯舘村の菅野村長との面談、福島市・飯舘村・浪江町・南相馬市の空間放射線量の測定、土壌・山菜の採取を行いました。また、文部科学省のモニターカーによる測定結果の追試を行いました。
突然の訪問となったことに対し、調整をくださった地域の関係各者にお詫び申し上げるとともに、休日にもかかわらず、私たちのプライベートな要求に対応頂いたことに感謝申し上げます。 今回の訪問で空間線量率や土壌調査をおこなったのは、福島県の訪問直前に南相馬市教育委員会に連絡を取ったところ、学校の放射線量を測定し、土壌・環境汚染を評価してほしいという話であったことと、政府・自治体で公表されるデータではわからない、放射線量分布の不均一さについて調査したかったことなどがその主な理由です。また、政府・自治体の公表データの信憑性に関する当チームへの問い合わせがあり、その問いに答えるために、データを取得する必要がありました。 【使用した計測器】 ALOKA γSurvey Meter ICS-321(電離箱線量計) MKS-05 TERRA(電離箱線量計) NaIシンチレーター TCS-151 ポケット線量計(個人線量計) 【測定】 使用する線量計、測定方法の相違により、測定値には若干の誤差が生じる可能性があります。そこで単一チームで同じ線量計・測定方法による測定データを取得しました。公表されている公的機関の測定データとの比較をおこない、さらに放射線線量分布の不均一性について(どういうところが放射線量が高いのか又は低いのか)も評価を行いました。 文科省が発表しているモニタリングカーを用いた固定点における空間線量率 http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304001.htm は、複数の線量計により、車外で地表から1mの高さ、障害が何もない方向に向けて計測している。4月29日のデータは以下を参照しました。 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/04/29/1305388_042913.pdf また、小中学校内の空間線量率の変化について調べています。 【4月29日に観測した空間線量率の結果と考察】 1日の空間線量率測定結果(地表1mでNaIシンチレーターを使用) 8:00-17:00までの個人線量被ばく(ポケット線量計)44μSv 【文科省モニタリング結果の追試結果】 文科省が発表しているモニタリングカーを用いた地点32, 33, 36(文科省の公表データで、それぞれの「測定エリア」に与えられている番号)の空間線量率を追試し、4/29の値をほぼ再現しました。今回の追試結果及びこれまで公表されたデータの経時的な変化から、それらのデータに問題はない、と言えるのではないかと考えています。ただし、少し離れただけでも値は変わります。測定地点の位置ずれによる測定値の違いについて次に解説します。 表1. 4/29文科省モニタリングの追試結果[μSv/h] モニタリングポイントNo. チーム中川 文科省4月29日 【32】 18.3 19.5 【33】 13.6 13.8 【36】 2.5 2.6 文科省、チーム中川ともに電離箱線量計により、車外で地表から1mの高さ、障害が何もない方向に向けて計測。 測定地点の位置ずれによる測定値の違い 浪江町赤宇木国道399号線上の地点でのモニタリングの映像を示します。この動画では前半が北緯37°37′28.46″東経140°44′36.98″、後半が北緯37°35′34.77″東経140°45′12.85″の地点での1mの高さでのNaIシンチレーターによる観測値のふらつきが収められています。 【浪江町山間部モニタリングの動画】 http://www.youtube.com/watch?v=ytfqphTahA0 ここは山道になっており、前半は、道路の真ん中から谷側に掛けてはあまり変化せず、山側で強い値を示しました。後半は逆に谷側が強い値を示しています。観測値は、道路を横切るだけで、30%程は簡単に変化してしまうことがわかります。(確認のため電離箱線量計による追試も行い、ほぼ同様の結果を得ました) 同位置で同種類の線量計で文科省モニタリング結果を再現する一方、映像で示したように、測る位置を少し変えただけで値が大きくふらつきます。放射線量の経時的な変化を観測する場合には、毎回同じように計測するよう注意が必要です。また、ホットスポット(線量が局所的に高い地点)の探査などを進めていく必要がありそうです。 【幼稚園、小中学校における空間線量測定結果】 南相馬市で調べた幼稚園、小中学校すべてのグラウンドで、1mの高さの空間線量率は1μSv以下の比較的低い値が観測されました。福島県災害対策本部によると幼稚園、小中学校における環境放射線測定モニタリングは、グランドの複数点で、地表から1mの高さと1cmの高さで行われています。以下は4月5-7日分の公表されている結果と比較してください。 http://www.pref.fukushima.jp/j/schoolmonitamatome.pdf さらに私たちは、いくつかの場所について線量測定を実施し、同一学校内において (1)場所による空間線量率にどの程度差が出現するか、(2)測定点での地表からの高さにより線量率がどの程度変わるかを検証しました。 (1)場所による空間線量率にどの程度差が出現するか 南相馬市にある鹿島中学校において観測された、場所による空間線量率の依存性を表2に示します。 【鹿島中学グラウンドモニタリングの動画】 http://www.youtube.com/watch?v=PZormwqJmzU 表2. 4/29南相馬市鹿島中学校の空間線量率測定結果[μSv/h] 場所 空間線量率[μSv/h] 校庭(校舎側) 0.5-0.8 校舎そば(コンクリート) 0.2 鹿島中学校中庭 0.5 鹿島中学校校庭脇の排水溝 1.8 鹿島中学校校舎側(コンクリート)0.2μSvに対し、校庭脇の排水溝では1.8μSvと、高めの放射線測定値が示されました。側溝は雨水がためる場所のため、雨によりグラウンド表面の放射性物質が流され側溝にたまったと推察されます。コンクリートの上では線量が低くなる傾向にありました。土壌表面がセシウムを貯蔵していることがわかります。 グラウンドの内外で測る位置を少し変えただけで値が大きくふらつくという事実は、被ばく量の管理について、特定の環境放射線量のみに頼るべきではないことを示唆します。個人線量計によるモニタリングが必要です。 (2)測定点での地表からの高さにより線量率がどの程度変わるか 公表されている結果を見る限り、測定点の高さでは、放射線量は極端には変わらないという印象を持ちます。これは、ある面では事実ですが、一方で注意しなければいけない点もあります。これを以下に説明します。 ・“ガンマ線※”の寄与 ※ガンマ線とは、エネルギーの高い(=波長の短い)光のことです。 広いグランドにほぼ均一に放射線物質がされていると仮定した場合、“ガンマ線”は透過性が高く、その強度は大気ではあまり弱められないため、測定点の高さによって放射線量は極端には変化しません。放射線の散乱を考えない場合、放射性物質が一様に分布した円盤上(半径100m)から生じる、鉛直方向の距離zの放射線量の近似的な 振る舞いを示すと次のようになります。 半径100mの円内に放射性物質が均一に分布している場合の、その中心における地面からの距離(cm)による線量の減衰。高さが変わっても、放射線量にあまり変化がないことがわかります。 ガンマ線のエネルギーを0.6 MeV(減弱係数を0.0009689 cm-1としました) “ベータ線※”の寄与 ※ベータ線とは、エネルギーの高い(=高速の)電子のことです。 今回の訪問で得た結果でも、同一の場所では、30cmの高さ、50cmの高さ、1mの高さで放射線量は大きく変わりませんでした。一方、10cm、1cmになると放射線量が少しずつ高くなります。放射性のヨウ素やセシウムはガンマ線だけでなく、“ベータ線”も放出します。このベータ線はガンマ線より透過性が低く、2mm程度の紙でブロックすることができます。また微量な大気中の分子によっても弱められます。そのため、ベータ線を含めた計測では、地面に近いほどその寄与が大きくなります。 表3. 飯舘村草野地区付近での空間線量率の高さ依存性[μSv] 測定点高さ ベータ線窓開 ベータ線窓閉 100 cm 5~6 5~6 50 cm 9~10 5~6 10 cm 16~17 6~7 ベータ線窓開:ベータ線とガンマ線を計測 ベータ線窓閉:ガンマ線のみ計測 線量計はMKS-05 TERRAを使用 放射性ヨウ素やセシウムから生じるベータ線は、2mm程度の厚紙で止めることができます。また、ベータ線は大気中の分子によっても止まるため、1mの高さでは、“ガンマ線”が支配的であり、10cmでは“ベータ線”が支配的となります。実際に、2mm程度の紙を地面に置いて測定すると、10cmでも1mの高さに近い値を示しました。 ベータ線とはエネルギーの高い電子線のことです。電子線は放射線治療でも用いますが、電子線は体内深くまで到達できない性質を持っており、主に体表面の治療に用います。ベータ線では体表面付近のみ被ばくすることになります。(Cs-137から生じるベータ線(1.175MeV)は体表面から2-3mm程度で止まります) 実効線量は等価線量×組織加重係数(皮膚の組織加重係数は0.01)で見積もりますので、ベータ線による被ばくの寄与は、観測量より大分小さくなります。さらに肌の露出を避けていれば、ベータ線の影響をなくすことができます。したがって、外部被ばくを推定する場合、ガンマ線が支配的である1mの高さで計測される環境放射線量を用いるのが最も適切です。 一方で、学校のグランドでは、生徒らが体育や部活動で泥だらけになることは当然想定されなければなりません。土埃により放射性物質を体内に取り込んでしまう内部被ばくの危険性も、一般のケースに比べて高くなることも予想できます。そして、放射線防護の観点では、放射線量を出来うる限り低減させようとする努力は常に必要です。児童生徒のケアに対しては、土壌改良のような対策が求められます。 /////////////////////// 空間線量率結果のまとめ 私たちteam_nakagawaのモニタリング結果は、文科省のデータを良く再現いたしました。空間線量率の測定は、検出器があれば誰でも簡単に行えますが、測定条件が異なれば、当然異なった結果を与えます。ここで示した位置による変化や測定点の高さによる変化はその例でしょう。また、検出器の校正も定期的に行っていなければ、それによる単一のデータだけでは信頼性があるとは言えません。政府や自治体のデータを追試したり、継続して放射線測定を行う場合には、こうした事実をきちんと意識した計測が必要です。文科省や自治体の同一地点・高さでの経時的なモニタリングのデータ測定の積み重ねは、環境放射線量の変化や、原発から新たな放射性物質の放出がないことを確認する上でとても重要です。今後も継続していくこととともに、さらに広範囲に細かいデータ収集を行って欲しいと思います。 一方、測定目的・測定条件の提示や、測定の意図をわかりやすく説明する必要があります。こうした説明の欠如が、地域の皆様の不安や誤解を生む要因となるのではないでしょうか。放射線測定の専門家や学会・団体が、モニタリング活動を積極的に関与(援助)できる体制の早期構築を望みます。
by teamnakagawa
| 2011-05-13 17:02
| 福島訪問
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