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2011年 04月 08日
放射線に関するいろいろな数値や単位(シーベルト〔Sv〕、ベクレル〔Bq〕等々)が発表されていますが、それらの数値が体にどのように影響を及ぼすのか、結局わからない、かえって不安になる、という意見を多くいただいています。繰り返しになることも多いですが、放射性ヨウ素について再度以下に取り上げます。
【まとめ】 *放射性ヨウ素131の現状について(I-131) 「放射性物質」というのは「安定していない状態の物質」で、より安定な物質に変化しようとします。「放射性物質」が変化する際にエネルギーを放出します。これが“放射線”です。 ヨウ素131は放射性物質であり、つまり絶えず変化する物質です。その変化する(=崩壊する)際に放射線の一つであるβ(ベータ)線を出して、キセノン131になります。キセノン131に変化した後は、別の放射線の一つであるガンマ線を出してこれ以上変化しない安定した物質に変わります。(これを安定元素と呼びます。)安定元素になると、これ以上放射線は出しません。 放射性物質の変化の速さは、物質ごとに決まっています。ヨウ素131の場合は約8日で半分が安定元素に変化することが知られています(元の物質が半分になるのが8日なので、これを「半減期が8日である」と言ったりします)。 ヨウ素131は月日の経過とともに、急速に少なくなっていきます。例えば、2か月経つと最初の量の200分の1にまで減ります。 3月15日以降、放射性物質の大気への大きな放出がない(このように言える理由については、早野龍五先生の連続ツイートを参照ください http://togetter.com/li/119437 )と考えられますので、 現在、放射性ヨウ素131(I-131)の量は、3/15の放射性物質の放出直後から1/8以下まで減少したと考えられます。(3月28日以降、東京の飲料水に放射性ヨウ素131が検出されていません。) 他方、4月2日、福島第一原子力発電所から、高濃度の放射性物質に汚染された水が、海に流失しているのが発見されました。これまでにどれだけの量の水が流出したか、現時点(4月7日)では明らかでありませんが、原子力発電所付近では排水の規制値(ヨウ素131: 40Bq/L、セシウム137: 90Bq/L)よりもはるかに高い値が検出されています。また文科省による海域モニタリングで、観測地点10(沿岸部)で37.5Bq/Lと他の地点よりも高く測定されました。(http://atmc.jp/plant_sea/under/を参照してください。) また、懸念されていた魚介類からも、放射性ヨウ素が検出されています。放射性ヨウ素の半減期が8日と短いため、これまでその主な摂取源として「水、乳製品、野菜類」しか考えられていませんでした。 ところが、原発からの放射性物質の流出が長く続いているために(その結果、海中の放射性ヨウ素が減っていきません)、魚介類にも新たに「暫定規制値」が与えられる必要が生じました。こうした事実を受け、4月5日、魚介類の「暫定規制値」は野菜と同値である2,000 Bq/kg(1キログラムあたり2千ベクレル)に緊急に設定されました。 *誰が、どのくらい、どのように被ばくすると影響が出るのでしょうか? 今までの放射線事故を振り返ってみると、「18歳未満」で「放射性ヨウ素」を取りこんで、「甲状腺」が被ばくすることが、最も危険であると言えます。 しかしながら、その量については、一概に述べることは困難です。 世界保健機関(WHO)では甲状腺等価線量で25mSv(ミリシーベルト)を緊急時の安全基準としています。国際連合食糧農業機関(FAO)や日本の食品安全委員会では、50mSv(ミリシーベルト)です。 日本における食品に含まれる放射性ヨウ素の暫定規制値は、甲状腺等価線量で50mSv(ミリシーベルト)を超えないように決められています。 甲状腺被ばくについては、暫定規制値と国際原子力委員会がまとめたチェルノブイリ事故の報告書(2006年)をもとに、「さらに詳しく知りたい方へ」でもう少し詳細に検討したいと思います。 一方で、何事もバランスが大事です。水分補給が必要な場合には、摂取を控えずに。特に妊婦、乳児が必要とする水分補給を減らさないことが推奨されます。以下を参照ください。 http://www.jpeds.or.jp/pdf/touhoku_6.pdf http://www.who.or.jp/index_files/FAQ_Drinking_tapwater_JP.pdf *数ヵ月後はどのような放射性物質に対する注意が必要でしょうか? →ヨウ素131よりも寿命の長い(半減期の長い)、放射性セシウム137(Cs-137)や放射性ストロンチウム90(Sr-90)に注意する必要があると考えられます。これについては、この次にまとめを掲載します。 参考: セシウムは体の中に取り込まれた後、全身の筋肉などに取り込まれるため、特定の臓器に集中しませんが、ストロンチウムは骨に集まりやすい性質を持っています。また、ストロンチウム90(Sr-90)単独の暫定規制値は設定されていません。セシウム137(Cs-137)を含む放射性セシウムの基準を設ける際に、ストロンチウムもある程度含まれるものとして、考慮されています。(考慮における割合比率は、チェルノブイリ事故の教訓をもとに作成されていますので、今後の精査によって、見直される可能性もあります。) 半減期が8日のヨウ素131(I-131)と異なり、セシウム137(Cs-137)とストロンチウム90(Sr90)は半減期が約30年であり、長期的視点に立って暫定規制値が決められなければなりません。 ーーーーーーー まとめはここまで ーーーーーーー 【さらに詳しく知りたい方へ】 以上の「まとめ」を受けて、放射性ヨウ素(I-131)の身体への影響について、暫定規制値とIAEA(国際原子力委員会)のチェルノブイリ事故の報告(2006年)をもとに、さらに詳しく解説します。 チェルノブイリ原発爆発事故では、周囲数百kmにわたり非常に多量のヨウ素131が飛散してしまいました。ヨウ素131が牧草に付着 → その牧草を牛が食べる → その牛の乳を搾る → 牛乳を飲む、このようなプロセスを経て、高濃度のヨウ素131を含む牛乳を摂取することになりました。 この汚染された牛乳(日本の暫定規制値の17倍から130倍以上と言われています)を、ほとんど規制・制限することのないままに、周辺住民が摂取してしまったこと、その結果、ヨウ素131の内部被ばくをしてしまったことが、特に小児において甲状腺がんが増えた原因と考えられています。 ベラルーシではチェルノブイリの事故前の11年間で7名であった小児甲状腺がんが、チェルノブイリ原発事故の後、11年間で508名と大幅に増加しました。さらなる調査では、16年間で18歳以下の子に対し、ベラルーシで2,010名、ロシア連邦で483名、ウクライナで2,344名と、約5,000人もの方が甲状腺がんになったことがわかりました。その中でも、事故当時4歳以下の子の甲状腺がんの発生率(死亡率ではありません。甲状腺がんはがんのなかでも、最も治りやすいものです)が高くなっていました。 ウクライナに住む4歳児以下が被ばくした甲状腺の等価線量に対する人工比率は、以下の「グラフ1」のように報告されています。 農村部 都市部 200-1,000 mSv(日本の暫定規制値の18-90倍) 43 % 33 % 1,000-5,000 mSv(日本の暫定規制値の90-450倍) 15 % 7.5 % 5,000 mSv以上 2.6 % 1.7 % ウクライナの4歳以下の小児の甲状腺の被ばく線量が極めて大きかったことを示しています。図には日本の乳製品に対して規制される11.1mSv(ミリシーベルト)=11,100 μSv(マイクロシーベルト)も示しています。チェルノブイリ原発事故においても、早期の段階で放射性ヨウ素の摂取制限が取られていれば、甲状腺がんの発生率も十分低く抑えられたと考えられています。 今回の福島第一原発事故では、飲料水や食品に対して規制されており、現在行なわれている甲状腺被ばく検査では、原発周辺の子供たち946人に対して問題がないことが報告されています。 原発からの放射性物質の飛散が、今後抑えられていれば、放射性ヨウ素はどんどん少なくなっていきますので、放射性ヨウ素が飲料水や食品の暫定規制値を超えることも、それに応じて少なくなっていきます。 ただし、海への放射性物質の流出問題は継続中です。そして、子供たちへの甲状腺被ばくは、今後も慎重に調査を進めていかなければならないことは言うまでもありません。 続いて、日本の暫定規制値の決められ方について、魚介類の問題も生じてきましたので、再度以下に検討します。 日本の規制値は、ヨウ素131の1年間の摂取上限を、甲状腺の被ばく線量で50mSv(ミリシーベルト)(国際放射線防護委員会〔ICRP〕は、50-500 mSvを推奨)とし、そのうちの2/3にあたる33.3mSv(ミリシーベルト)を「水、牛乳等、野菜類」から摂取すると考え、均等に11.1mSv(ミリシーベルト)ずつを割り当てました。 この値をもとにした場合、1日あたりの上限値は、牛乳の場合300 Bq/kg(1キログラムあたり300ベクレル)、野菜の場合2,000 Bq/kg(1キログラムあたり2,000ベクレルと決められました。 今回、新たに魚介類に対する規制が必要となりました。これは50 mSvの残りの1/3「その他の分類」に割り当てられていると考えられます。魚介類の1日の摂取量は、野菜の1日の摂取量400gと同程度ないしは少ない量とみなし、野菜と同じ規制値を用いています。 もちろん、これまで、魚介類からの放射性ヨウ素の摂取は想定外でしたので、魚介類に新たに暫定規制値を設定するという点で、大きな混乱を招きました。しかし、上述のように魚介類は「その他の分類」に割り当てられるとすれば、日本の規制値の上限である年間50 mSv(甲状腺)は変えられていいないと思われます。多くの情報が氾濫する中で大変難しいことですが、今の状況を冷静に見つめることが、混乱を避ける上でとても大事です。 また、魚介類に関しては、新たに注意しておくこともあります。 現状の放射性ヨウ素に対する措置は、暫定規制値を求める際、ヨウ素が減少していく寄与が含まれています。すなわち、大きな放射性ヨウ素の放出が事故時のみであることを想定しています。そのため、大気への放出に関連した飲食物の汚染は、(放射性ヨウ素がどんどん少なくなっているため)この防災規定の範囲で扱うことに問題はありません。 しかし、汚染が継続して続く場合はその限りではありません。そこで1年間の摂取制限線量と現在の暫定規制値から、単純な計算で、どれぐらいの水・乳製品、食料などの全体の量が摂取可能か、試算した結果も以下に示します(アメリカ食品医薬品局(FDA)はこのような方法で暫定規制値を決定しています)。 年間の甲状腺の等価線量は50 mSvです。測定値(Bq/kg)から人体への影響を表す等価線量(mSv)を求める「線量変換係数」は、大人、幼児、乳児で異なります。 乳児の線量変換係数は0.0037(mSv/Bq)(甲状腺)ですので、 50(mSv) / 0.0037(mSv/Bq) / 100(Bq/kg) = 135 kg となります。乳児の一年間総摂取量を418kg(アメリカ食品医薬品局試算)と仮定すると、約3.8カ月間、規制値上限の飲食物を摂取し続けると甲状腺等価線量が50mSvに到達します。 年齢別では、以下のようになります(FDAのデータを基に、日本の暫定規制値を適用)。 2.2か月=67日が最小と試算されます(あくまで全部100 (Bq/kg)のヨウ素131が含まれた食品を全て取った場合の試算です)。 したがって、大気や海に対して、放射性物質の流出がいつまで経っても止めらない状況に陥ったときには、放射性ヨウ素も引き続き深刻な問題を及ぼすことになります。そんなことにならないよう、海への放射性物質の流出を止めること、さらに今後、放射性物質を外部に絶対に放出させない取り組みが必要です。 以下は、他国ないし国際機関による放射性ヨウ素(I-131)の規制値のまとめです。 成人の数値は、上から「日本の暫定基準値」、「国際放射線防護委員会(ICRP)」、「世界保健機関(WHO)緊急介入レベル」、「国際原子力委員会(IAEA)の緊急介入レベル」の数値です。 乳児の数値は、「日本の暫定基準値」、「世界保健機関(WHO)緊急介入レベル」、「コーデックス委員会(CODEX)」、「国際連合食糧農業機関(FAO)」です。 なお、これらの指標は、原子力発電所の事故等、「緊急時」における指標であることに注意して、以下をご覧ください。 成人 日本の暫定規制値 300 Bq/kg(飲料水)300 Bq/kg(牛乳・乳製品)2,000 Bq/kg(野菜類) ICRP 3,000 Bq/kg (食品全体) WHO緊急介入レベル 1,000 Bq/kg (食品全体) IAEA 3,000 Bq/kg(飲料水)3,000 Bq/kg(牛乳・乳製品)3,000 Bq/kg(野菜類) 乳児 日本暫定規制値 100 Bq/kg(飲料水)100Bq/kg(牛乳・乳製品) WHO緊急介入レベル 100 Bq/kg (食品全体) CODEX 100 Bq/kg(飲料水)100 Bq/kg(牛乳・乳製品) FAO 緊急レベル 400 Bq/kg 参考 www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1467_web.pdf http://www.who.int/ionizing_radiation/a_e/en/ http://www.codexalimentarius.net/download/standards/17/CXS_193e.pdf http://www.fao.org/docrep/u5900t/u5900t08.htm
by teamnakagawa
| 2011-04-08 12:16
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