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2011年 03月 29日
ニュース等の報道で耳にする機会が多くなった、飲食物摂取制限に関する「暫定(ざんてい)規制値」の意味、また「暫定規制値」を決める根拠について多数のご意見•ご質問を頂いています。
ここでは特に、放射性ヨウ素の暫定規制値がどのように決められているかを文献に沿って、私たちが知りうる範囲でなるべくわかりやすく解説します。 ※なお、参考にした文献は以下のもので、引用した数値もこの文献から引用しています。 ・「飲食物摂取制限に関する指標について」(平成10年3月6日原子力安全委員会原子力発電所等周辺防災対策専門部会環境ワーキンググループ) ・「日本の防災指針における飲食物摂取制限指標の改定について」(須賀新一、市川龍資、保健物理35(4),449-466(2000)) これらは、国際放射線防護委員会(ICRP)、国際原子力機関(IAEA)等の考え方に基づいています(詳細は以下を参照ください)。 ・国際放射線防護委員会(ICRP)〔英文〕 http://www.icrp.org/ ・国際原子力機関(IAEA)〔英文〕 http://www.iaea.org/ 【公衆における放射線被ばくの許容値(緊急時)】 現在(2011年3月29日)日本での公衆の放射線量の許容値(緊急時)は、実効線量が、1年間あたり5mSv(ミリシーベルト)、放射性ヨウ素(I-131, I-132, I-133, I-134, I-135など)は主に甲状腺への影響が支配的なので、甲状腺等価線量の場合は50mSv(ミリシーベルト)と規定されています。 ここでは放射性ヨウ素について説明しますので、甲状腺等価線量で以下お話を進めていきます。 まず、日本での放射性ヨウ素の暫定規制値が、甲状腺等価線量50mSvからどのように求められたかを説明します。 【飲食物摂取制限指標の考え方】 ヨウ素は様々な食品からとりこまれますが、その2/3を「飲料水」(水)、「牛乳・乳製品」(牛乳等)、「野菜(根菜や芋類を除く)」(菜類)から取り込むと考えます。 すなわち、甲状腺等価線量の上限である1年間あたり50mSvを被ばくした場合、そのうち33.3mSvを「水、牛乳等、菜類」から摂取したと考えます。 その寄与が均等であると仮定して、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから1年間あたり11.1mSvを被ばくの上限と考えます。 成人、幼児、乳児に対する放射性ヨウ素の摂取制限量は次のように求めます。まず、年齢階級により「甲状腺等価線量換算係数」と摂取する飲食物の「種類と量」に違いがあります。 なお、「甲状腺等価線量換算係数」とは、次のものです。まず、「1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量」が「1Bq(ベクレル)」。この係数は、「1Bq(ベクレル)」あたり、どれだけの「放射能と放射線の生物に対する影響の度合い」(mSv〔ミリシーベルト〕)をもつか、を示すものです。 それぞれの甲状腺等価線量換算係数(mSv/Bq)と、1日あたりに摂取する飲食物の量(キログラム)は以下を用いています。 甲状腺等価線量換算係数(mSv/Bq)(放射性ヨウ素131〔I-131〕の場合) 成人0.00043幼児0.0021乳児0.0037 水の摂取量(kg/day)〔1日あたりのkg数〕 成人1.65幼児1.0乳児0.71 牛乳等の摂取量(kg/day) 成人0.2 幼児0.5乳児0.6 菜類の摂取量(kg/day) 成人0.4幼児0.17乳児0.07 1年間の甲状腺被ばく上限値11.1mSv(ミリシーベルト)に対して、「成人、幼児、乳児」の、「水、牛乳等、菜類」で許容される1キログラムあたりの放射能(ベクレル〔Bq/kg〕)は、時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式を用い、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから、1年間あたり11.1mSv(ミリシーベルト)を被ばくの上限として、「許容放射能量」を決めています。 また、本来は市場における希釈や加工による除染などの効果もありますが、より厳しい制限をかける為に、これらは考慮していません。放射性ヨウ素については以下の数値となります(I-131, I-132, I-133, I-134, I-135をすべて含む)。許容放射能量ですので、単位は「Bq/kg」です。 水 成人1,270 幼児424 乳児322 牛乳成人10,000 幼児849 乳児382 菜類成人5,220 幼児2,500 乳児3,280 暫定規制値は“一番小さい値を超えないように”決められます。言い換えれば、水や牛乳の暫定規制値は、乳児がそれらを摂取して1年間で11.1mSvを超えないように決められ、同様に、菜類は幼児がそれを摂取して1年間で11.1mSvを超えないように決められます。結果として「飲食物摂取制限に関する指標について」では、暫定規制値として1キログラムあたり、以下のように決めています。許容放射能量ですので、ここでも、単位は「Bq/kg」です。 暫定規制値 水 300 牛乳等300 菜類2,000 【海外では】 ICRP(国際放射線防護委員会)では、原子力災害発生時(緊急時)の勧告を出しています。比較のため、飲料水1キログラムあたりの摂取制限量を見てみましょう。世界保健機関(WHO)からの提言にあるとおり、「緊急介入レベル」(Operational Intervention Levels (OIL's))では、放射性ヨウ素131(I-131)だけでも3,000 Bq/kgとなっています。 たったいま示したように、日本では、300Bq/kgですので、大きな違いがあることがわかると思います。これは、1年間の甲状腺被ばく上限値の違いや、飲食物の摂取量の違いに原因があると考えられます。 他方、緊急時における乳幼児に対する上限は、WHOでも100Bq/kgとなっています(WHO Radiation emergencies)。この値は、今回の事故に伴う対応として厚労省から通知された、乳児による水道水の摂取制限量と同じになります。 詳細をお望みの方は、以下が参考になると思います。 ・WHO SITREP NO13 http://www.wpro.who.int/NR/rdonlyres/55CDFAF4-220A-4709-A886-DF2B1826D343/0/JapanEarthquakeSituationReportNo1322March2011.pdf ・IAEA Safety Standards http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1467_web.pdf ・WHO Radiation emergencies http://www.who.int/ionizing_radiation/a_e/en/Radiation_emergency_guidelines.pdf 【付記】 なお、乳幼児のお子様を持つご家族の方、妊娠されている方は、飲食物に放射性物質が検出されたことによって大変な不安を持たれたことと思います。 この点に関しまして、専門の学会が見解を出されておりますので、それらを参照しながら冷静に対処していくことが、お子様の健康にとっても大変大切なことになると思います。以下を参照ください。 「食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な指標値100Bq/キログラムを超過する濃度の放射性ヨウ素が測定された水道水摂取」に関する、日本小児科学会、日本周産期・新生児医学会、日本未熟児新生児学会の共同見解 http://www.jspnm.com/Shinsai/docs/d110325_3.pdf 日本医学放射線学会 「妊娠されている方、子供を持つご家族の方へ−水道水の健康影響について」 ttp://www.radiology.jp/modules/news/article.php?storyid=912
by teamnakagawa
| 2011-03-29 21:26
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