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2011年 07月 06日
がんの「基本」を数回に分けて解説しています。今回は5回目です。この「番外篇」は、今回で最後となります。(第1回、第2回、第3回、第4回)
がんは消えても患者さんは… わが国では、がんの患者さんも治療にあたる医師も、ともかくがんを治すことだけを考えてきました。完治(かんち)はもう無理とわかっていても、亡くなる前の日まで抗がん剤を使ったりするのです。 こんな例がありました。直腸がんの手術後に、肝臓(かんぞう)の転移が見つかった患者さんのケースです。ずっと強い抗がん剤の治療を受けていて、結局は副作用で白血球が減り、感染症で亡くなりました。 解剖をしたときに担当医が患者さんの奥さんに満足そうに「よかった、抗がん剤は効いていました。肝臓のがんは消えています」と言ったというのです。 がんは消えても治療で患者さんは亡くなっている、本末転倒です。 治癒率より大切なこと 現在、がんの治癒率(5年生存率)は、おおよそ5割くらいです。治療の進歩にもかかわらず、いまだに半数近くの方が命を落としています。しかし、がんで亡くなる患者さんを支える医療が、日本では十分に行われているとはいえません。 これまでの日本のがん治療の現場は、治癒率を少しでも高くすることにだけ力を注いできました。まさに、勝ち負け重視の医療です。 しかし、死に直面し、からだや心に痛みを抱えている患者さんにこそ、最高の医療が提供されてしかるべきでしょう。これこそが、「医の原点」であるはずです。 緩和ケアという考え方 欧米では、治癒できないがんや痛みなどの症状を持つ患者さんの、さまざまな苦しみを和らげることを主眼として、緩和(かんわ)ケアの考え方が確立されています。 これは、中世ヨーロッパにおいて、キリスト教の精神から、巡礼者、病人、貧窮者を救済したhospitium(ホテル、ホスピタル、ホスピスの語源)に起源を持ち、痛みなどのカラダの苦痛への対処、死の不安などの精神的苦痛への対処、遺族への対処などを行います。 一方、日本はがん治療の後進国ですが、緩和ケアはさらに遅れているのが実情です。がんの痛みを和らげることは、緩和ケアのいちばん大事な役割ですが、その主流は、モルヒネあるいは類似の薬物をクスリとして飲む方法です。 モルヒネと聞くと、薬物中毒など悪いイメージがあるようですが、口から飲んだり、皮膚に貼ったり、ゆっくり注射したりする分には安全な方法です。このモルヒネの使用量が、日本はカナダ、オーストラリアの約7分の1、アメリカ、フランスの約4分の1程度と先進国のなかで最低レベルです。 モルヒネとその関連薬物である、オピオイド(医療用麻薬)全体について言えば、日本は米国のなんと20分の1程度で、世界平均以下の使用量です。医療用の麻薬の使用量は、その国の文化的成熟度に比例すると言われていますので、大変残念な数字です。 しかし、麻薬を使わない分、日本のがん患者さんは激しい痛みに耐えているのです。実際、日本では、がんで亡くなる方の8割、つまり日本人全体の実に4人に1人が、がんの激痛に苦しむと言われています。 この理由には、「麻薬を使うと中毒になる、寿命が短くなる、だんだん効かなくなる……」などの迷信があるようですが、全く根拠はありません。 人生の仕上げのために ある患者さん(会社経営者)は肺がんの全身への転移がみつかり、ご本人の希望で「余命は約3カ月程度」と告知しました。骨の転移によって激痛がありましたので、モルヒネの飲み薬を勧めたのですが、「麻薬なんて、カラダに悪いし、命が縮まる」と拒否されたのです。 頭の中では死を理解しても、ココロでは受け入れられなかったのだと思います。しかし、激しい痛みのため、会社の整理はうまくいかなかったと聞きました。 現実にはモルヒネなどの麻薬系の薬を飲んでも、中毒などは起こりません。それどころか、モルヒネなどを適切に使って痛みがとれた患者さんの方が長生きする傾向があるのです。 これは、食事もとれ、睡眠も確保できますので、当然といえば当然で、激痛のある末期の膵臓(すいぞう)がん患者さんを対象とした無作為比較試験でも実証されています。 日本人は、痛みをとることを拒否し、結果的に激しい痛みに苦しんで、人生の仕上げができないばかりか、生きている時間の長さでも損をしているのです。 別のケースもあります。ある乳がんの方は外資系のキャリアウーマンで、30歳代半ばで亡くなりましたが、完治しないということをお話ししました。抗がん剤療法について、それはどれくらい延命できるのか、どれくらい肉体的に負担があるのと聞かれて、結局、抗がん剤は何も使わないという選択をされました。 脳の転移だけは、放射線治療で治して、後は旅行に行かれたり、好きなワインを飲まれたり、生活をエンジョイされました。そして最後は、ある意味、思い描くような死を受け入れておられました。 まさに、彼女の死は、彼女自身によって飼い慣らされていったようでした。すてきな死だった、と今でも思い出すことがあります。 がんの治療のうち、放射線は一番副作用が少ないので、末期がんにも使えます。体調の悪い末期がん患者にも使えるほど、放射線はカラダへの負担が少ない、ということです。脳や脊髄(せきずい)に転移して麻痺(まひ)が出た時に、放射線を転移部位にかけるとその麻痺がとれます。 がんが完治するわけではありませんが、症状の進行を防ぎ、生活の質=「クオリティ・オブ・ライフ」を高めることにつながります。 このように、末期でもがんの治療が必要になることもありますが、他方、早期がんでも緩和ケアが必要な局面があります。告知を受けて痛んだ心にはケアが必要です。 がんの治療とがんのケアは対立するものではありません。治療とケアはともに必要で、病状によってウェイト(比重)が変わってくるだけなのです。がんの治療とケアのバランスをとれるのが、「名医」の条件だと思います。 知っておくべきこと(復習) 日本人が、がんについて知るべき事柄はそうそう多いわけではありません。この冊子に書いてあることで十分です。要約すると次のようになります。 1 がんは、DNAがキズついておこる、一種の老化。 2 日本は「世界一の長寿国=世界一のがん大国」。しかし、がん対策後進国。 3 がんは、できる臓器によって、治療手段も治癒率もちがう。 4 がん治療の3つの柱は、手術・放射線治療・抗がん剤。がんの完治には、手術か、放射線治療が必要。 5 日本では、がん治療=手術だが、多くのがんで、放射線治療も同じ治癒率。 6 がんの種類が、胃がん、子宮頸(しきゅうけい)がん、肝臓がんなどの感染症型のがんから、肺がん、乳がん、前立腺がん、大腸がんなどの、欧米型のがんにシフト(変化)している。 7 欧米型の多くがんでは、放射線治療が大事。セカンドオピニオンは放射線治療へ。 8 転移したがんの治癒は難しいが、緩和ケアが有効。 9 治療とケアのバランスが大事。痛みはとった方が長生きもする。 #
by teamnakagawa
| 2011-07-06 15:05
| がんとは何か
2011年 06月 22日
がんの「基本」を数回に分けて解説しています。今回は4回目です。(第1回、第2回、第3回)
がん細胞の誕生と転移、そして治療の可能性 おさらいをしておきます。がんは、ある臓器にできた、たった1つの異常な不死細胞が、免疫の攻撃をかいくぐって生き残った結果できるものです。 この細胞がつぎつぎと自分と同じ不死細胞をコピーしていき、どんどん大きくなります。ただし、実際に検査でわかるような「がん」になるまでには10~30年かかることが普通です。 がんは、自分が生まれた臓器から栄養を奪い取って成長しますが、やがて住処(すみか)が手狭(てぜま)になると新天地をもとめて移動したがります。これを水際で捕える「関所」のようなものがリンパ腺(リンパ節)です。 さらに、がん細胞の中には血液のなかに泳ぎだして、新大陸である別の臓器をめざす不埒者(ふらちもの)もいます。こうなると治癒(ちゆ)はむずかしくなります。まだ血液の海を渡って他の臓器に転移していない状態、つまりリンパ腺にとどまっている場合であれば、治癒の可能性は残ります。 鳥かごと鳥 がんは、限られた栄養を、正常細胞とがん細胞とが奪い合う一種の「椅子(いす)とりゲーム」のようなものです。 ただ、ふつうの椅子とりゲームとちがって、がん細胞の数がどんどん増えていくので、ゲームを続ければ続けるほど、正常細胞にとって椅子の確保がむずかしくなる。 しかし、ゲームのルールは単純ですから、がんは物理的・数学的にとらえることができる。つまり、物理法則に相当する「公式」が成り立つのです。 その公式の1つとして、転移をしてしまったがんは、大腸がんの肝臓転移(本当の意味での全身転移とは言えません)など一部例外はあるものの、基本的に治癒しにくいという点があげられます。 血液のなかにがん細胞が流れ込んで、他の臓器に転移するわけですから、1ヶ所にだけ転移することはまれです。植民地を世界中に作って、五大陸に進出していったかつての西洋諸国と同じです。 がんの転移があれば、その際の治療は、全身にばらまかれたがん細胞に対するものになりますから、全身的な治療、つまり抗がん剤が治療の中心になります。しかし、残念ながら、強い抗がん剤を使ってもがんが完治(かんち)する可能性は低く、治療の目的は延命となります。 これを「鳥かごと鳥」にたとえてみます。早期のがんの治療は、鳥かごの中の鳥を捕まえるようなもので、比較的簡単です。 リンパ腺にまで転移したようなある程度進行したがんは、鳥が鳥かごから出て、部屋の中を飛び回っている状態です。鳥かごに入っているときよりは大変ですが、がんばれば捕まえられるでしょう。 転移したがんは、鳥が部屋の窓から外に出て行ったようなもの。鳥を捕まえることはむずかしくなります。 それでも、たまたま鳥が部屋に戻ってくる可能性はゼロではありません。気がついたら、鳥が自分からかごのなかに入っていることだってあり得なくはないでしょう。これが、末期がんからの「奇跡の生還」です。 がんが治るかどうかは、最終的には確率的なものですので、奇跡はつねに起こり得る。その意味で、大逆転の希望はいつも失われませんが、それでも外に出て行った鳥がかごに戻ってくるような奇跡は、望んで得られるものではありません。転移したがんはこれと同じで、治らない確率が高い状態、というのが正確な表現です。 がん治療の3つの基本──手術・放射線治療・化学療法 さて、現代医学において、がんの治療として、はっきりと効果が証明されているのは、手術・放射線治療・化学療法の3つです。 ①【手術】は、ある臓器にとどまっているがんとまわりのリンパ腺をメスで切り取ってしまう治療法です。がんの組織だけを切ろうとするとがん組織を取り残す心配がありますので、普通はがん組織のまわりの正常な組織も含めて切除します。 がん細胞を完全に切除できれば、がんは完治することになります。たとえば早期の胃がんで転移がない場合は、手術療法でまず100%治すことができます。ただし、切り取った部分以外にもがん細胞が存在すれば、再発の可能性が残ります。 ②【放射線治療】は、臓器にできたがんにだけ、あるいは、予防的にそのまわりのリンパ腺などをふくめて放射線をかける治療です。 ある決まった範囲(数ミリ程度の場合もあります)にだけ影響を与えるので、手術と同じ局所治療です。 ③【化学療法=抗がん剤治療】は、抗がん剤などの化学物質を点滴や飲み薬の形で投与するもので、化学物質が全身に行き渡る点で、手術や放射線治療と異なります。 全身に転移がある状況では、(手術や放射線治療などの)局所治療ではダメですので、理屈の上では唯一効果のある治療法です。 しかし、ほとんどのがんで完治するためには、局所治療である手術か放射線治療か、どちらかが必要なのです。逆に言えば、化学療法だけで治るがんはまずありません。 クルマ選びとがん治療 手術・放射線治療・化学療法のうち、日本ではなんといっても手術ががん治療の代名詞でした。医師に「がんです」と告知されると、次は「先生、切れるのでしょうか?」というのがおきまりの台詞(せりふ)だったのです。そして、切れれば大丈夫、切れなければ絶望、というのがこれまでのがん患者さんのお気持ちでした。 しかし、これは日本独特の風習にすぎません。欧米では、自分のがんをいかに楽に、安く、的確に治療するのがよいか、患者さんが主体的に考えるのです。 特別なことではありません。クルマ選びと同じです。クルマを買うときには、いろいろなカタログを集めて比較するものです。セールスマンが「このクルマがいいから買いなさい」などと言ったらどうでしょう。きっと「オレのクルマなんだから、オレが決める!」と腹が立つはずです。がんも同じ。がん治療は自分で選ぶ時代が来ています。 がんにもいろいろある 「がん」は1つひとつ違います。がんと言っても千差万別(せんさばんべつ)なのです。 「がん」という言葉は、がんが、結核・エイズ・心筋梗塞(しんきんこうそく)などと同じ、1つの病気であるという誤解を与えます。 しかし、がんは千差万別で、治癒率が99%のがんも、0%に近いがんも存在します。どちらも同じく「がん」と呼ばれますが、患者さんの立場からすれば、とても同じ病気にはみえないはずです。 がんはDNAのコピーミスが原因ですので、1つとして同じがんは存在しないのです。しかも、がん細胞は、どんどん突然変異をくりかえして性質が変わっていきます。ですから、すべてのがんはそれぞれに違った、「世界に1つだけの」病気なのです。 しかし、どの臓器からできたものかによって、がんの性質はおおよそ決まります。たとえば、タチの悪さで言えば、①膵(すい)がん②肝臓がん③肺がん④乳がん⑤前立腺がん⑥甲状腺がんの順で、番号が小さいほどより悪質です。 がんの完治は定義できない さて、驚かれるかもしれませんが、実はがんの「完治」にはっきりした定義はありません。 結核や肝炎などの感染症であれば、細菌やウイルスがカラダのなかから消えれば完治を意味します。 しかし、がんの場合には、なにせ(だれのカラダの中にも)毎日5,000個ものがん細胞が新たに発生していることもあって、がん細胞がカラダから完全になくなることはありません。 乳がんや前立腺がんなどでは、治療後20年以上経ってがんが再発することもあるのです。この場合、過去に治療を行った同じがん細胞が再発するわけですが、カラダのどこに潜んでいるのかよくわかっていません。 しかし普通は、治療後5年間再発しなければ、まず大丈夫だろうと考えて、5年生存率(がん治療から5年経った時点で患者さんが生きている確率)を治癒率として使っているのです。ただし、乳がんや前立腺がんでは、10年生存率をもって治癒率と考えることが一般的。 繰り返しますが、がんが完治したと100%断言することは不可能です。がんの治癒とは、「再発しない確率が非常に高くなった状態」と考えるしかありません。 検診に向くがん、向かないがん がんは、一まとめにできない病気ですので、早期発見・早期治療がすべてではありませんし、検診が常に有効とも言えません。 たとえば、90歳の男性が検診で「早期」の前立腺がんを発見して手術を受けたとしましょう。早期の前立腺がんが実際に症状を出すには、30年以上かかると言われますので、この患者さんの場合、治療をせず様子を見るのが賢明です。検診がマイナスに作用する例です。 一方、膵臓(すいぞう)がんのような進行の早いがんを検診で見つけるには、毎月検診を受ける必要があります。検診に向いているがんはそれほど多くないのです。 しかし、大腸がん・子宮頸(しきゅうけい)がん・乳がんは検診の有効性が国際的に証明されていて、受けないのは損です(乳がんの場合は触診だけでなく、マンモグラフィーという乳がん専用のレントゲン検査が必要です)。 検診の有効性がはっきりしているがんなのに、受診率が低い。これは残念です。「検診向き」、つまり検診を受けることが有効ながんの受診率を上げる必要があります。 告知されたら さて、がんと告知されたときの心構えは、まず情報を集めること。「即入院・即手術」などと言われても、医師に病状などメモを書いてもらい、一度家に帰ることです。 実際、たった1つの細胞から始まって、数センチのがんに育つまでには、10年、20年以上の年月がかかる。あわてる必要はありません。じっくり情報を集めて、正しい戦略を立てるべきです。その上で、別の医師からも話を訊く「セカンド・オピニオン」をお勧めします。 すでにご説明したように、がんを完治させるには、手術か放射線治療が必要です。多くの患者さんは外科で診断を受けるでしょうから、セカンドオピニオンの相手は、放射線治療の専門医が最適だと思います。 最後に、インターネットについて。便利で手軽ではありますが、金銭目的のサイトもあり、注意が必要です。その点、以下のがん情報サイトは信頼できますので、ぜひ参照し、うまく利用されるとよいと思います。 ▼国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス」 http://ganjoho.ncc.go.jp/public/index.html ▼がん研有明病院「がん・医療サポートに関するご相談」 http://www.jfcr.or.jp/hospital/conference/index.html ▼がん情報サイト http://cancerinfo.tri-kobe.org/ 放射線の効用 放射線治療の特長は、がんを切らずに治し、臓器の機能や美容を保つ点にあります。例えば喉頭(こうとう)がんは、手術でも放射線治療でも治癒率は変わりませんが、選択されるのは放射線治療です。手術をすれば声を失うからです。 乳がんは、かつて乳房とその下の筋肉を根こそぎ切り取る手術が主流でした。しかし今は、腫瘍(しゅよう)の周辺だけをえぐって取り、乳房全体に放射線をかける「乳房温存療法(にゅうぼうおんぞんりょうほう)」が主流です。 直腸がんが肛門の近くにできると、手術後に人工肛門となる可能性がありますが、手術前に放射線をかけることで、その可能性を減らすこともできます。 喉頭がんや直腸がんは臓器の機能を温存する治療例、乳房温存療法は美容を保つ治療例です。 放射線治療は、多くの場合、1ヶ月程度の通院ですが、一回の治療は数分で、患部の温度は2,000分の1度くらいしか上がりません。 なぜ2,000分の1度というわずかなエネルギーでがんが消えるのでしょうか? このわずかなエネルギーでもがんのDNA(遺伝子の本体)が切断されるため、がん細胞の分裂と増殖がうまくいかなくなるのです。 また、免疫(めんえき)のしくみが、がん細胞を異物(敵)として認識できるようになることも大きい効果です。このため、がんが免疫細胞に攻撃されてしまう。放射線は「一種の免疫療法」という側面もあるのです。 また、放射線治療では、がんに放射線をできるだけ集中することが大事です。仮に、完全にがん病巣部にだけかけることができ、周りの正常の細胞には放射線が全く当たらないようにできれば、放射線を無限にかけることができ、100%がんは治ることになります。 こうした発想はかつては机上(きじょう)の空論でしたが、現在ではけっして夢物語ではなくなってきています。 (つづく) #
by teamnakagawa
| 2011-06-22 22:23
| がんとは何か
2011年 06月 16日
がんの「基本」を数回に分けて解説しています。今回は3回目です。(第1回、第2回)
がん細胞との闘いは、毎日5,000回も起きている 細胞が分裂するときには、元のDNAを2倍にコピーして、新しい2つの細胞に振り分けます。人間(の細胞)がやることですから、コピーのときにミスがおこることがあります。これが突然変異です。 こうした細胞は多くの場合、死にますが、ある遺伝子に突然変異がおこると、細胞は止めどもなく分裂を繰り返すことになります。 最近の研究では、がん細胞は健康な人の体でも一日に5,000個も発生しては消えていくことがわかっています。がん細胞ができるとそのつど退治しているのが免疫細胞(リンパ球)です。免疫細胞は、ある細胞を見つけると、まず自分の細胞かどうかを見極めます。そして、自分の細胞でないと判断すると、殺してしまいます。 がん細胞は、もともと私たちの正常な細胞から発生していますので、カラダの外から侵入する細菌などと比べると、免疫細胞にとって「キケンな異物」と認識できない傾向がある、と言われます。それでも免疫細胞は、できたばかりのがん細胞を攻撃して死滅させます。私たちのカラダのなかでは、毎日毎日、「5,000勝0敗」の闘いが繰り返されているのです。 聖人君子でも、がんになる しかし、年齢を重ねると、DNAのキズが積み重なってがん細胞の発生が増える一方で、免疫細胞の機能(免疫力)が落ちてきます。そのため、がん細胞に対する攻撃力が落ちる結果、発生したがんが免疫の網をかいくぐって成長する確率も増えるのです。 長生きするとがんが増えるのは、突然変異が蓄積されるのと、免疫細胞の働きが衰(おとろ)えるからなのです。がんが老化の一種、と言われるのはそのためです。がんは、一部の例外を除き遺伝しません(例外は家族性腫瘍)。むしろ「がんになる、ならない」は運の要素が大きい。 目には見えない壮絶な闘いを勝ち抜いて、ひっそりと生き残ったたった1つのがん細胞は、分裂した子孫の細胞がすべて死なない「スーパー細胞」です。 がん細胞はゆっくりと倍々ゲームで分裂を重ねていき、100万個(すべてが同じ細胞!)まで増殖すると1ミリくらいの大きさになります。検査によって発見されるまで育つには、通常10~20年以上の時間が必要です。 これが、がんが高齢の方に多いもう1つの理由。その意味では、がんは昨日今日できたものではありませんから、がんと診断されてもあわてる必要はないのです。 社会や医療環境が良くなって寿命が長くなれば、それだけがんが増える、これはやむを得ない定めです。がんになることを前提として、がんになってもあわてないように人生をとらえ、過ごす必要があるのです。 生活習慣とがん がんは、細胞のDNAにキズ(突然変異)が積み重なってできます。この突然変異は、年齢とともに自然に増えていくもので、白髪やしわのようなもの。ここまでにはすでに述べました。 しかし、どんながんができやすいかは、生活習慣にも左右されます。たとえば、乳がんや前立腺がんが増えているのは、動物性の脂肪を多く摂るようになったことが背景にあります。 冷蔵庫で胃がんが減少 これまで日本では、胃がん、子宮頸がん、肝臓がんなど、ウイルスや細菌による感染が原因となる「アジア型」のがんが多かったのですが、衛生環境の改善などで、こうした感染症型のがんによる死亡は減少に転じています。 胃がんは、ヘリコバクター・ピロリ菌などの細菌が原因の1つですから、冷蔵庫が普及して新鮮で清潔な食物を口にするようになって、減りました。 実際にアメリカでも、1930年ごろは、胃がんががん死亡のトップでした。日本より先に冷蔵庫が普及した結果、今では胃がんは白血病より少ない、珍しいがんになっているのです。 ウイルスで感染するがん 子宮頸(しきゅうけい)がん(子宮の出口の部分にできるがん)は性交渉にともなう「ヒトパピローマウイルス」の感染が主な原因で、コンドームの使用で予防できます。 また、性交渉を始める前の女の子に、このウイルスに対するワクチンを接種することによっても、予防ができます。ワクチンを打てば、その後パピローマウイルスが子宮にとりついても、免疫ができていますから感染しません。まさに、麻疹(はしか)の予防と同じ考え方です。 子宮頸がんは、20歳代で急増しています。日本でも、ようやくワクチンが承認され、昨年11月からは、中学1年生~高校1年生を対象に、公費補助もはじまりました。 ※参考:「子宮頸がんの予防(ヒトパピローマウイルスと予防ワクチン)」国立がん研究センターがん情報サービス 肝臓がんも、その大部分は肝炎ウイルスの感染が原因です。肝炎ウイルスは輸血が主な感染ルートでしたが、今ではこうしたウイルスに感染していない血液が輸血されますので、肝臓がんも減る傾向にあります。 がんの「アジア型」と「欧米型」 わが国では、高齢化によってがんの死亡はどんどん増えていますが、そのなかで2005年に死亡数が減少したのは、ここにあげた胃がん・子宮頸がん・肝臓がんという「アジア型のがん」だけなのです。 逆に、タバコが原因となる肺がんの他、動物性脂肪のとりすぎが原因と考えられる乳がん・前立腺がん・大腸がん・子宮体がんなど、「欧米型」のがんが増えています。 では、なぜ、動物性脂肪をとると、乳がん・前立腺がんなどが増えるのでしょうか? 女性ホルモン・男性ホルモンは、コレステロールを材料として体内で作られます。ですから、肉を食べなければ性ホルモンは増えません。お坊さんが精進料理を食べる理由です。統計データはないでしょうが、お坊さんには前立腺がんは少ないと推測されます。 日本女性のバストも欧米人なみになりました。これも肉を食べるようになった影響です。肉食の結果、女性ホルモンがたくさん分泌され、乳がんが増えているのです。 さて、「子だくさん」のお母さんには、乳がんができにくい。それはなぜでしょう。 妊娠中は女性ホルモンのバランスが変わります。たとえば10人の子供を出産すると、10カ月×10人=100カ月、つまり8年間近く乳がんができにくい状態が続きます。実際、未婚の女性に乳がんは多いのです。 がんを防ぐには? このように、がんは生活習慣に密接に関連しています。生活習慣病の一種と言っていい、社会を映す鏡なのです。 ただし、注意がいるのは、生活習慣が発がんのリスクを高めることはあっても、がんになるかどうかの根本は運(確率)である点です。ですから、ベジタリアンの聖人君子でも、がんになってしまう可能性はあるのです。 なお、アジア型のがんの代表である胃がんの死亡を、欧米型のがんの代表である肺がんの死亡が追い越したのは、アメリカで1950年ごろ、日本では1990年すぎです。がんの種類については、日本はアメリカに40年程度遅れているわけです。 がんにかかるかどうかは運次第、という面も否定できませんが、日常生活に気をつければ、ある程度がんを防ぐことが可能です。禁煙が第一ですが、野菜と果物を食べ、肉やお酒はほどほどにして、太りすぎないことが大事です。これでがんの約60%(禁煙で30%、食生活の工夫でさらに30%)が防げるだろうと考えられています。 タバコとがん とくに、タバコはがんの原因の3割程度を占めるもので、禁煙がもっとも効果があります。日本の喫煙率は、減ってきたとはいえ欧米の倍以上で、実は日本は世界一の「タバコ大国」。世界一の「がん大国」の一因です。 現在、日本でもっとも死亡が多いがんが肺がんです。タバコが原因の肺がんは男性で70%、女性で15%。とくに若い人の喫煙は危険で、20歳未満で喫煙を開始した人は、吸わない人の約6倍も肺がんによる死亡率が高い。 ノドのがん・胃がん・食道がん・肝臓がんなども、タバコで増えます。あまり増えないのは、大腸がんと乳がんくらいでしょう。タバコがなくなれば日本男性のがんの3割が消滅するのです。 さらに、タバコの最大の問題は間接喫煙による他人への影響です。この点は飲酒とちがいます。 (つづく) #
by teamnakagawa
| 2011-06-16 04:04
| がんとは何か
2011年 06月 08日
これから数回にわたって、がんの基本を説明していきます。前回の内容はこちらをご覧ください。
がんは増えている がんが増えています。日本人は毎年およそ100万人が死亡していますが、そのうち32万人くらい、つまり3人に1人ががんで亡くなっています。65歳以上では、2人に1人ががんで亡くなるのです。 実は、「がん登録」(がんが診断されると、そのタイプや進行度の他、治療方法とその結果を詳しく登録して、がん対策に活用する仕組み)が行われてこなかったわが国には、何人に1人ががんになるかについて、正確なデータがありませんが、おおざっぱに言って、日本人の「2人に1人」ががんになると言えるのです。 がん増加の原因は長寿 国民の半数がかかり、3人に1人が命を落とす、こんな病気は他にありません。まさにがんは国民病で、世界でも類を見ません。では、なぜこれほどがんが増えているのでしょうか? 日本人が長生きするようになったからです。 がんは、人間の細胞の設計図であるDNAに、徐々にキズがついたために生まれる異常な細胞です。簡単に言えばがんは細胞の老化です。 そして、DNAのキズが積み重なるには、時間がかかる。たった1つのがん細胞が検査でわかるほど大きくなるには、10年から20年の時間が必要です。つまり、長く生きなければがんを作るいとまがないのです。 日本人は長生きになりました。日本人の平均寿命は82歳で現在世界一ですが、明治元年の平均寿命は30歳、大正元年で40歳ほど。ちなみに、縄文時代では15歳程度だったと言われます。 織田信長は、「人間五十年、下天のうちをくらぶれば夢幻の如くなり」と謡いましたが、その当時の平均寿命は20数歳。子供のころにバタバタ死ぬから、平均寿命は短い。大人になるまで生きれば、安土桃山時代でも50歳まで生きたというわけです。 日本人は第二次世界大戦後、急速に長生きになったのですが、乳幼児の死亡率減少が最大の理由です。現代の日本女性の平均寿命は86歳で、これは子供の死亡までを含んだものですから、65歳に達した方々は90歳まで生きることになる。日本は前人未踏の長寿国家なのです。 世界一のがん大国 こうして日本は「世界一の長寿国」になり、その結果、「世界一のがん大国」になりました。「がん大国」は恥ずべきことかもしれませんが、「世界一の長寿国」となった結果です。日本の衛生環境や医療がよくなって、みんなががんになるまで長生きするようになったのです。 日本人の寿命は今後さらに延びますから、がんはいっそう増えるはずです。仮に平均寿命が100歳を超えるようなことになれば、がんにならない人の方が珍しくなる。もはや、がんは日本人と切っても切れない関係にある「業病(ごうびょう)」なのです。 「人は死んでも生き返ると思いますか?」 しかし、今の日本社会には、死を認めないムードがあります。高齢者が家で亡くなるケースが減り、死は一般に病院に閉じこめられ、生活や意識から排除されているのです。死が見えなくなっている。 最近のある小学校のアンケート結果を見て驚いたことがあります。「人は死んでも生き返ると思いますか?」と先生が尋ねたところ、なんと3分の1が「生き返る」と答え、3分の1が「わからない」と回答したというのです。正解はわずかに3人に1人(宇都宮直子『「死」を子どもに教える』中央公論新社)。死はリセットできるものと感じられていることがわかります。 末期まで懸命に生きる患者さんの闘病記はテレビなどで人々を感動させる一方、死そのものは日常からきれいに拭(ぬぐ)い去られているのです。日本人の大半は、死なないつもりで生きているのではないでしょうか。あるいは、死の感覚を喪失しているのではないか。 がん治療の進歩によって、がんの半数は治癒できる時代になりました。しかし、「がん=死」というイメージはまだまだ根強い。憲法で戦争を放棄し、徴兵制もない今の日本で、死に直接結びつくのは、がんくらいでしょう。ですから、多くの日本人にとって、がんは「縁起でもない」存在です。最低限の知識も耳に入らなくなってしまっているのです。 実際、高い喫煙率、動物性脂肪ばかりが増えている食生活、低い検診率と必要の乏しい高額の検査、あまりの手術偏重、軽視される放射線治療、不適切なそして使われすぎの抗がん剤治療、放置される患者の苦しみ、根拠がなく法外に高い健康食品や民間療法、心が通わない医師と患者の関係……など。日本のがん医療には、問題が山積しています。 でも、こうした問題を解決していくには、専門家ではなく、日本人の一人ひとりが、まず「がんを知ること」です。知らなければ立ち向かうこともできません。国民病なのだから、私は小学校から教科書で教えるべきだとすら思っています。 がんは他の病気とちがって、患者さんの人生の縮図とも言うべき病気です。人生の時計の針が多少早く回っている、と言えるかもしれない。がんの患者さんは、人生はだれにとっても、いつでも下り坂であることを身に染みてご存知です。 がんが治っても人はかならず死にます。人間の死亡率は100%です。がんを通して人生を考えることが、「よく生き、よく死ぬ」ことにつながると確信しています。 DNAが傷ついて起こる病気 人のカラダは、60兆個の細胞からできています。1つ1つの細胞のまんなかには核があり、そのなかに細胞の設計図といわれる遺伝子(DNA)が入っています。がんは、このDNAが傷ついて起こる病気です。 60兆個の細胞の出発点は、たった1つの受精卵(じゅせいらん)です。この受精卵が、細胞分裂を少なくとも50回は繰り返して、脳、肺、胃腸などの臓器をかたち作る。 臓器ができあがると、それぞれの細胞はまわりの仲間の細胞と協調しながら、自分の役目を果たします。そして、必要なときだけ分裂し、必要な分だけ増えると分裂を止めて、寿命がくると死滅します。 この細胞の「入れ替え」は、カラダの老化をおさえるのに必要で、新しい細胞は、毎日8,000億個も作られます。一生涯で臓器の細胞は、数千回入れ替わると言われているほどです。 それぞれの個体は、成熟したら子孫を残し、寿命がきたら自分は死ぬ。この「個の役割」と「世代間のバトンタッチ」こそ、私たち人間を含む生き物の営(いとな)みです。 がんは暴走機関車 しかし、がん細胞は、コントロールを失った暴走機関車のようなもので、猛烈な速さで分裂・増殖を繰り返し、生まれた臓器から勝手に離れて、他の場所に転移します。 がんは正常な細胞の何倍も栄養が必要で、患者さんのカラダから栄養を奪い取ってしまうのです。進行したがんの患者さんが痩(や)せていくのはこのためです。 がんが進行すると、栄養不足を起こすだけでなく、塊(かたまり)となったがんによって圧迫を受けたり、がんが原因の炎症が起こったりします。 たとえば、背骨に転移したがんは骨を溶かし、自分が住むスペースを作りながら大きくなっていくので、激しい痛みをもたらします。さらに、がんが大きくなって背骨の中を走る脊髄(せきずい:神経の束)を圧迫すると麻痺の原因にもなります。 (つづく) #
by teamnakagawa
| 2011-06-08 13:41
| がんとは何か
2011年 06月 02日
放射線被ばくパニックに、収束の見通しが立ちません。しかし、私たちは、いったい、何を怖がっているのでしょうか? あるいは、何を怖がるべきなのでしょうか?
脱毛や白血球の減少といった「確定的影響」は、福島原発の近隣を含めて、一般の方々には起こりえません。起こるとすれば、「確率的影響」すなわち「発がんリスクの上昇」です。(ヒトの場合、子孫に対する遺伝的影響は“観察されていません”。) 広島・長崎のデータでも、100ミリシーベルト以下では、発がんリスクが増えたというデータはありません。100ミリシーベルト以下の被ばくでは、がんは増えないということではなく、放射線被ばくよりはるかに発がんに影響を与える生活習慣のなかに、被ばくによるリスクが「埋没してしまう」のです。 だからといって(一部に誤解があるようなので急いで付け加えておきますが)「放射線による多少の被ばくを心配するには及ばない」などと言っているのではありません。被ばくは少ないに越したことはありません。ALARAの原則(as low as reasonably achievable)が言うとおり、放射線被ばくは「合理的に達成可能な限り低く」が大前提です。 政府によって「警戒区域」や「計画的避難区域」「緊急時避難準備区域」が設定されたのも、健康被害を最小限にとどめるための施策です。福島県の学校等において、校庭の汚染された表土の除去(や有効な対策を立てるための各種の実験)が進みつつあることも、必要なことですし、大賛成です(この点は本Blogでも主張してきました。[参照]放射性セシウムと放射性ストロンチウム、福島訪問──その1 飯舘村の特別養護老人ホーム、福島訪問──その4 対策に対する提案)。各地にモニタリングポストが設置され、積算線量を含むデータが公開されていることも重要です。対策を講じるためには(思い込みではなく)客観データが必要ですので、継続していただきたいと思っています。 実効性ある対策をどんどん講じる、衆知を結集して早急に対処する──これを確認した上で、「放射線による健康被害」について(事実上、ストレスの増加や生活の乱れに起因する健康被害を除けば、発がんリスクの上昇とイコールです)、立ち止まって考えていただきたいことがあります。 100ミリシーベルト以下の被ばくでは、がんを発症した場合、被ばくと発がんの因果関係を立証できない、ということは何を意味するか、です。低線量被ばくによる発がんリスクの上昇の有無について、諸説あることは承知していますが、科学的なコンセンサスとして、なぜ「100ミリシーベルト以下では、発がんリスクが増えたというデータはない」と言われるのか、「発がん」の基本に戻って考えてみたいのです。 具体的には、「がんとは何か」「がんを発症するメカニズム」「がんと生活習慣」「がんにならないための生活」「がんにかかった場合の治療法の選択」「緩和ケア」などを、ご説明したいと思うのです。 さて、この「まえがき」では、日本におけるがんという疾病について、基本的なことを確認しておきます。今回の福島第一原発の事故がなかったとしても、そして、原発に由来する放射線に被ばくすることがなかったとしても、わが国はもともと、世界一の「がん大国」です。2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっています。 だれだって、がんになりたくないし、がんで死にたくはありません。そのために一番“確実な”方法は、がんにならないことです。しかし、どんな「聖人君子」でもがんになり得るのです。おおざっぱに言えば、がんの原因の3分の1がタバコ、3分の1がお酒や食事や運動といった「タバコ以外の生活習慣」です。そして、残りの3分の1は「運」といってよいものです。理想的な生活でも、がんを完全に防ぐことはできません。 ですから、がんを避ける生活習慣を心がけるとともに、「運悪く」がんになっても、早期に発見して完治させる必要があります。この生活習慣(1次予防)+早期発見(2次予防)の「2段構え」が、がんで命を落とさないための特効薬なのです。 実際、がん全体の「5年生存率」(医学的には、治療によって、がんが消失してから5年経過後までに再発がない場合を「治癒」とみなします)は5割を超えていますので、がんは「不治の病」ではありませんが、早期がんで発見されれば、ほとんどの臓器のがんで、治癒率は9割以上になります。早期に見つければ、がんは怖くありません。 しかし、早期がんを発見するには、定期的な検診が不可欠です。早期がんは症状を出しませんし、がんの症状が出れば、進行・末期がんの場合が多いからです。つまり、がんで命を落とさないためには、生活習慣+がん検診が大事というわけです(すべてのがんに検診を勧めるわけではありません。詳細は残念ながら割愛せざるを得ません)。 しかし、日本人男性の4割近くがタバコを吸いますし、がん検診の受診率はざっと、2割程度にとどまります(欧米では8割近く!)。こうしたことが背景となり、欧米では年々減っているがん死亡数が、日本では、増え続けています(タバコによるがん死亡リスクの上昇は、放射線で言えば、2,000ミリシーベルト以上に相当)。 発がんを心配するのであれば、検診を受けていただきたいのです。そうでもしないと、早期発見はむずかしいからです。自覚症状が出た場合は、すでに進行がん・末期がんである場合が多い、ということが大切なポイントです。 私たちは、自分が怖がっている、放射線、そして、がんという「恐怖の対象」をよく知る必要があります。しかし、唯一の被爆国で、世界一のがん大国、日本に暮らしているにもかかわらず、私たちは相手のことをよく知りませんし、学校でも習った記憶がありません。よく考えるとヘンな話です。 このブログでは、放射線のことをずっとお話ししてきましたが、これからしばらく、「がんのひみつ」を解き明かしていきたいと思います。がんを知り、そして、放射線被ばくを正しく怖がっていただきたいと思っています。 中川恵一 #
by teamnakagawa
| 2011-06-02 14:53
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